出張予定日の水曜日の当日になった。天候は荒れ気味である。
悪天候で鉄道がストップした時に備えて、ビジネスホテルを予約してあるので安心である。
鉄道で片道4時間ほどかかったが、
予定通り、営業予定先の電子機器の販売代理店に赴いた。
打ち解けた会話が彼らには幾分、話しやすい気がしていた。
店長は気さくで明るくユーモアのある人柄だった。
こうた「今期の我が社の取扱商品はどれくらいの売上でしょうか」
店長「いいとこいっています」
「トントンなちょうしです」
「素晴らしい性能です、これからもお願いします」
「まぁ、お茶でもどうぞ」
こうた「ありがとうございます。ではいただきます。」
「さっ、すみれさんも、ご馳走になりなさい」
すみれ「いただきます。では、失礼します。」
新茶の程よい香りがまろやかな風味を醸し出していた。
春の緑茶は淹れたてで風味のひきだしは過不足なかった。
お茶の挽き方と煎れ具合が上手なのがよくわかった。
お茶っ葉を焙煎するときの時の香ばしい香りが店内に漂い、彼らの気分を和ませた。
空の様子は天候が急変しだしていた。
旋風が吹き荒み、雨音が強烈な音をたててふり始めていた。
台風にしては時期が早いので、台風ではないかなり強い低気圧が日本列島を覆い始めていた。
携帯電話の文字ニュースでは、「主要国内鉄道や高速バスなど、今年最悪最大規模の低気圧の影響で明日まで全面運休決定。何十万
人の足に影響か。」の知らせがトップ項目で表示されていた。
すみれ「こんな時のために、ビジネスホテルを予約しておいてよかったです」
こうた「さぁ、行くよ」
予約したビジネスホテルは駅中にあり、アクセスが容易であった。
ホテルフロントで予約名を申し出て、早々とチェックインした。
すみれ「2名宿泊を予約した七海です。」
フロント「はい、承知いたしております。七海さま。お待ちしておりました。」
「それでは、こちらのフォームに必要事項をご記入願います。」
すみれは、慎重に記入をした。
すみれ「ええっと.....」
「シングル2名の予約だったのですが......」
フロント「急遽急ぎの予約が入っておりまして、シングルの部屋が満室になっております」
「大変申し訳ないのでございますが、七海様にはダブルで2名をご利用いただけないでしょうか」
「お申し出くだされば、補助ベッドもご用意できますので、お気軽にフロントまでお申し付けくださいませ。」
「わかったわ。」
フロント「ご協力大変ありがとうございます。」
すみれは書類にサインをして了承した。
すみれ「さあ、いきましょう!!」
すみれとこうたは、ガイドに案内されて、7階のroom7510に入った。
話し合いで合意してガイドによる室内の利用案内は省略することになった。
すでに何回もこのホテルを利用していたのと、早く休息を取りたいという二人の意向からだった。
結構な長旅と営業の仕事が重なって、疲れはピークに達していた。
こうた「いやー疲れたなー」「今日はバテバテだー」
すみれ「疲れた時はストレッチ体操かマッサージがいいみたいなの」
すみれ「じゃぁ、私がほぐしてあげましょうか」
「背中、トントンするだけでもいいのよ」
「このあたりをトントンって」
暫しの二人の時が流れていた。
こうた「い、いいよ。いいよ。」
すみれ「せっかくなんだから、遠慮しないの」
「この辺りをトントンとするだけでいいの」「トントンってね」
こうた「すみれさんもトントンで昇進するといいね」
その時でした。
携帯電話にセットしてあったアラームが鳴り始めた。
「ピンポーン、ピンポーン」と2回鳴り、業務報告をすることを知らせる
リマインダー機能が働いたのであった。
こうた「あっ、そうだった。忘れていた。」
「18:00までにこのアプリで本社に業務日誌を送信するんだった。」
「そうだった。そうだった。」
「うっかりしてた。」
会社専用の携帯タブレット型端末で、業務日誌を作成した。
5月20日18:00 報告者 斉藤
定時に出社。予定通り出張先の販売代理店に到着しました。
今回の顧客の反応は大変良いものでした。
我が社の製品のイメージや性能に対する一般的な反応がとても良いと評判で、店主も私たちを褒めてくれました。
新茶をご馳走になり、営業アシスタントと店主とで穏やかな雰囲気の中、サポートを終えることができました。
全体的に今回の取引先の訪問への成果は大変よいものが得られたという概観です。
この地区の販売圏は当社に有利な傾向が強いようです。
集中豪雨のため予定より1日遅れの明日に帰社する予定です。
以上で報告を終わります。
こうたは送信ボタンを押して報告書を送信した。
こうた「やれやれ、ようやくお休みが取れるぞー」
「えっとー、時刻は、えーっと、18:37」
「どうしようかな?」
「1階に軽食ラウンジがあったかな?」
すみれ「軽食ってことは、つまり営業時間が朝だけじゃないの?」
こうた「そういえば、そうだった、そうだった。」
「出張時のルームサービスの利用は我が社の社内基準では規定違反なんだ」
「贅沢は禁物なのが我が社のモットーで、みんなの努力成果を社会に奉仕還元することが
僕らの思想のようなものさ」
すみれ「それじゃ、ビュフェやカフェテリアはどうでしょう」
こうた「それにお決まり。」
すみれ「1階の奥に、カフェテリアがあるようよ」
急いで予約を入れた。
室内にある電話でカフェテリア「いろどりカフェ」に電話した。
2回コールしたのち、係の可愛い声で
「お待たせいたしました。いろどりカフェ案内係、飯田です。」
すみれ「7510の七海です。今夜の19:30から20:30の間で夕食の席を2名で予約したいのですが。」
係「七海様。2名様でご利用ですね。はいかしこまりました。」
すみれ「夕食のメニューでは何がおすすめですか?」
係「洋食では海老カツディナカレーとサラダセット、オレンジジュース付き 1440円」
「和食ではアツアツ海老天日本そば大盛りと採れたてアサリの味噌汁、赤かぶの酢漬け付き 1230円」
「中華ではネギみそチャーシュー味噌ラーメンバターコーン炒め、ミニメロンデザート付き 1140円」
でございます。
すみれ「じゃあ、海老カツディナーカレーとサラダセット、オレンジジュース付き1つと、アツアツ海老天日本そば大盛りと採れた
てアサリの味噌汁、赤かぶの酢漬け付き1つをお願いします。」
係「はい、承りました。」
「では、今夜の19:30でご利用お待ちしております。」
すみれ「意外とウブなんですね」「初体験っていつなんですか」
「そんな恥ずかしがることじゃないですよ」
「若いならあたりまえですよ」
「体験がないから、私がやってあげますよ!!」
普段の小気味のいい喋り方やキッパリと言葉をいう、いつもの様子と違うすみれの大人びた振る舞いに、こうたも、いつもと異なる
感覚にさせられた。
妙に大人になったというかもっと歳を重ねたアダルトな気分だった。
すみれ「私はあんまり裕福じゃなかったから、高級車なんかとは縁がないし、まあでも新聞は毎日読んで読書が得意で、身について
いた速読法が幸いして、四年生大学をようやく卒業したの」
こうた「社会でこうやって成人したのだから、少し贅沢してもいいって思うだろ?でもそんなの間違いさ。気が緩めは競争相手に先
を越されるし、社会ってそんなものさ。」
すみれ「私、このままがいい。こうして、先輩の背中に触れることができて、楽させることができるなんて、何か私の欲求が満たさ
れる気がするの」
二人の時間が少し止まった気がしていた。
ゆっくりとした時間の流れがムードの深みを与えている。
こうた「僕たちって、見えない琴線で結ばれているのかもしれないね」
こうた「すみれと初めて逢った時から、少し感じていたんだ。この人だってね。」
でも、それは感情ではない、何かである。
それは予感というべき言葉で表されるかもしれない、ある特別な感覚なのです。
この予感を既視感体験と似ているデジャビュで説明できるなら、
それはデジャビュの感覚を超えた現実の幸福の実現に他ならなかった。
すみれ「わたし、もっと欲求を満たしたいな。食事すれば満足するけど、それ以上はないわ。私どうすればいいのかしら。」
すみれはこうたを強く抱きしめていた。
すみれ「こうかしら」
こうたも、それにやさしく包み込むようにすみれの肩や背中をさするように抱擁した。
こうた「このままでいたい」
こうたはすみれに、恋を超えた、愛を感じ始めていた。
こうたはすみれを静かにそのまま抱き寄せた。
ホテルの1階のカフェテリア「いろどりカフェ」で夕食を嗜んでいる、すみれとこうたである。
二人だけの色濃いムードだった一室での出来事とは裏腹に、いつものテキパキした、すみれとこうたの会話が続いている。
しかしそれはお互いを思いやるこころざしがうかがえる。
こうた「仕事とかであんまり無茶しないんだよ。」
「体が小さいし、細いんだから、食事はしっかり摂るんだよ。」
すみれ「わかっているわ。」
こうた「食事は全ての源。医食同源という故事成語があるようにね。」
「バランスの取れた食事こそ、すみれの体を形作るんだ」
「肉ばっかりでも体は形成されないし、糖分であるご飯と、ミネラルや繊維質である野菜類やサラダも必ず食事で摂ることが大事な
のさ」
すみれ「よくわかってる」
体が小さい割に、みるみる食べるすみれに何かこう、頼もしさを感じるこうたである。
こうた「そうか、それはよかった」
すみれ「この前のおにぎりありがとう。美味しくて実家の母やおばあちゃんを思い出したわ」
すみれ「私も、先輩に何かご褒美あげなきゃって思っていたの」
すみれ「紺色のジャケットのポケットから2枚のチケットを取り出して、こうたに渡した」
「アイドルのコンサートチケットよ」
すみれ「来月の土曜日なんだけど、一緒にいきましょう」
すみれ「一緒に食事して、コンサート見に行って、ホテルに泊まるの」
すみれ「どうかしら」
こうた「わかった。とっても嬉しいよ。一緒に楽しもう。」
こうたの顔の表情がいささか満面の笑みでいっぱいになった。
すみれ「私も嬉しいわ」
すみれも嬉しさで食が進んでいた。
2人はカフェテリアでの夕食を終えて、ホテルの客室に戻った。
室内の時計は19:54を示していた。
2人は別々に入浴を済ませてから、ゆうたは備え付けのバスローブに、すみれは用意してきたパジャマに着替えた。
すみれ「いい湯だったわ」
濡れた髪は後ろに束ねられてアップになっていた。
淡いパステルブルーのパジャマは普段にはないプライベートの彼女の新鮮さを伺わせた。
こうたは、いつもより艶のあるすみれの姿に少し畏怖というか尊敬や尊重するような感覚を覚えていた。
すでにベッドに仰向けで横たわっているこうたには、すでに寝息が聞こえ始めていた。
すみれ「そうか、もう眠ったか。」
「それじゃ、私も休まなきゃね。それじゃちょっと失礼して....」
ダブルサイズあるホテルの客室のベッドにゆっくりと体を寄せるすみれであった。
すみれ「先輩の体って温かいな。」「私も一緒に温まろう」
まるで学校の修学旅行を彷彿とさせる、2人のようであるが、実際の修学旅行では決してこんなことはあり得なかった。
すみれはベッドの中で詩を書いていた。
詩のタイトル「旅びとの恋文」
「私、先輩をとても頼りにしているのよ」
「初めて逢った時から、羨望の眼差しで見ていたの」
「そんな先輩が気遣ってくれて、私は幸せ。」
「おにぎりのご馳走は、ほっぺが落ちるほどおいしい」
「だから、私も先輩に精一杯尽くすつもりなの」
「仲がうまくいかない時もあなたを信じているわ」
「あなたも同じように私を信じてね」
「諍(いさか)いの多い世の中だけど、それを乗り越えて行くつもり」
「母は大いなる海に例えれらるけど、私たちは母に包まれた旅人なのね」
「人生は旅に例えられることが多いけど、自然は容赦無く旅の船を嵐に巻き込むわ」
「だから嵐が来ても、お互い信じあえることを誓うの」
こうた「ううううっっ....ぐぅ」
こうたが寝返りをうって、すみれの体に触れていた。
すみれはそれをいいことにもっと体を寄せた。
すみれは、夢の中の本当の眠りの中に入っていった。
すみれが次に気づいたら、翌朝の午前7時34分であった。
室内の丸テーブルの上には、2人分のサンドイッチとホットミルクが置いてあった。
こうた「おはよう!!すみれちゃん」
すみれ「お、おはよう。」
こうた「軽食のラウンジで朝食のテイクアウトを頼んだんだ」
すみれ「おいしそうね」
丸テーブルを2人で囲み、サンドイッチを頬張っていた。
こうた「昨日はもう勝手に寝てしまったけど、すみれちゃんはよく眠れた?」
すみれ「私は、全然大丈夫。目覚めはとてもいいよ。」
ホテルの窓の外は青空が広がり昨日の豪雨はなんだったのかと思わせる晴天である。
遠くに港が見えていて、とても大きなコンテナ船が出港していく様子が青空に映える。
白いカモメが時折船をよぎる光景が5月の晴れの朝の活動を物語っている。
すみれ「サンドウィッチ食べ終わったら、さぁ、帰社する準備しよ」
すみれは長方形の黒いキャリーケースに持ち物を確認しながら、しまっていった。
自分の持ち物なので片付けはあっという間である。
すみれ「ここに散らかっているシャツや靴下、私が片付けます。」
すみれは部屋中見渡して、こうたの持ち物をこうたのアルミ製のキャリーケースに収納している。
すみれ「ここに、今日の新しいワイシャツと靴下と、下着置いておきます」
「スラックスはアイロンで平らに皺(しわ)を伸ばしておきました。」
こうた「ああ、ありがとう」
こうた「すみれちゃんは支度大丈夫なの」
すみれ「私は大丈夫です。世話をするのが好きなんです。なんでも任せてくださいね。」
そうこうしているうちに時刻は8時53分になっていた。
こうた「そろそろチェックアウトするぞ」
こうた「決済にはこのカードを使ってくれ。会社名で領収書をもらってくれ。」
フロントですみれがチェックアウトを済ませた。
フロント「七海様、またのご利用お待ちしております。ありがとうございました。」
帰路は予定通り帰社して、それぞれは何事もなかったかのように帰宅した。
悪天候で鉄道がストップした時に備えて、ビジネスホテルを予約してあるので安心である。
鉄道で片道4時間ほどかかったが、
予定通り、営業予定先の電子機器の販売代理店に赴いた。
打ち解けた会話が彼らには幾分、話しやすい気がしていた。
店長は気さくで明るくユーモアのある人柄だった。
こうた「今期の我が社の取扱商品はどれくらいの売上でしょうか」
店長「いいとこいっています」
「トントンなちょうしです」
「素晴らしい性能です、これからもお願いします」
「まぁ、お茶でもどうぞ」
こうた「ありがとうございます。ではいただきます。」
「さっ、すみれさんも、ご馳走になりなさい」
すみれ「いただきます。では、失礼します。」
新茶の程よい香りがまろやかな風味を醸し出していた。
春の緑茶は淹れたてで風味のひきだしは過不足なかった。
お茶の挽き方と煎れ具合が上手なのがよくわかった。
お茶っ葉を焙煎するときの時の香ばしい香りが店内に漂い、彼らの気分を和ませた。
空の様子は天候が急変しだしていた。
旋風が吹き荒み、雨音が強烈な音をたててふり始めていた。
台風にしては時期が早いので、台風ではないかなり強い低気圧が日本列島を覆い始めていた。
携帯電話の文字ニュースでは、「主要国内鉄道や高速バスなど、今年最悪最大規模の低気圧の影響で明日まで全面運休決定。何十万
人の足に影響か。」の知らせがトップ項目で表示されていた。
すみれ「こんな時のために、ビジネスホテルを予約しておいてよかったです」
こうた「さぁ、行くよ」
予約したビジネスホテルは駅中にあり、アクセスが容易であった。
ホテルフロントで予約名を申し出て、早々とチェックインした。
すみれ「2名宿泊を予約した七海です。」
フロント「はい、承知いたしております。七海さま。お待ちしておりました。」
「それでは、こちらのフォームに必要事項をご記入願います。」
すみれは、慎重に記入をした。
すみれ「ええっと.....」
「シングル2名の予約だったのですが......」
フロント「急遽急ぎの予約が入っておりまして、シングルの部屋が満室になっております」
「大変申し訳ないのでございますが、七海様にはダブルで2名をご利用いただけないでしょうか」
「お申し出くだされば、補助ベッドもご用意できますので、お気軽にフロントまでお申し付けくださいませ。」
「わかったわ。」
フロント「ご協力大変ありがとうございます。」
すみれは書類にサインをして了承した。
すみれ「さあ、いきましょう!!」
すみれとこうたは、ガイドに案内されて、7階のroom7510に入った。
話し合いで合意してガイドによる室内の利用案内は省略することになった。
すでに何回もこのホテルを利用していたのと、早く休息を取りたいという二人の意向からだった。
結構な長旅と営業の仕事が重なって、疲れはピークに達していた。
こうた「いやー疲れたなー」「今日はバテバテだー」
すみれ「疲れた時はストレッチ体操かマッサージがいいみたいなの」
すみれ「じゃぁ、私がほぐしてあげましょうか」
「背中、トントンするだけでもいいのよ」
「このあたりをトントンって」
暫しの二人の時が流れていた。
こうた「い、いいよ。いいよ。」
すみれ「せっかくなんだから、遠慮しないの」
「この辺りをトントンとするだけでいいの」「トントンってね」
こうた「すみれさんもトントンで昇進するといいね」
その時でした。
携帯電話にセットしてあったアラームが鳴り始めた。
「ピンポーン、ピンポーン」と2回鳴り、業務報告をすることを知らせる
リマインダー機能が働いたのであった。
こうた「あっ、そうだった。忘れていた。」
「18:00までにこのアプリで本社に業務日誌を送信するんだった。」
「そうだった。そうだった。」
「うっかりしてた。」
会社専用の携帯タブレット型端末で、業務日誌を作成した。
5月20日18:00 報告者 斉藤
定時に出社。予定通り出張先の販売代理店に到着しました。
今回の顧客の反応は大変良いものでした。
我が社の製品のイメージや性能に対する一般的な反応がとても良いと評判で、店主も私たちを褒めてくれました。
新茶をご馳走になり、営業アシスタントと店主とで穏やかな雰囲気の中、サポートを終えることができました。
全体的に今回の取引先の訪問への成果は大変よいものが得られたという概観です。
この地区の販売圏は当社に有利な傾向が強いようです。
集中豪雨のため予定より1日遅れの明日に帰社する予定です。
以上で報告を終わります。
こうたは送信ボタンを押して報告書を送信した。
こうた「やれやれ、ようやくお休みが取れるぞー」
「えっとー、時刻は、えーっと、18:37」
「どうしようかな?」
「1階に軽食ラウンジがあったかな?」
すみれ「軽食ってことは、つまり営業時間が朝だけじゃないの?」
こうた「そういえば、そうだった、そうだった。」
「出張時のルームサービスの利用は我が社の社内基準では規定違反なんだ」
「贅沢は禁物なのが我が社のモットーで、みんなの努力成果を社会に奉仕還元することが
僕らの思想のようなものさ」
すみれ「それじゃ、ビュフェやカフェテリアはどうでしょう」
こうた「それにお決まり。」
すみれ「1階の奥に、カフェテリアがあるようよ」
急いで予約を入れた。
室内にある電話でカフェテリア「いろどりカフェ」に電話した。
2回コールしたのち、係の可愛い声で
「お待たせいたしました。いろどりカフェ案内係、飯田です。」
すみれ「7510の七海です。今夜の19:30から20:30の間で夕食の席を2名で予約したいのですが。」
係「七海様。2名様でご利用ですね。はいかしこまりました。」
すみれ「夕食のメニューでは何がおすすめですか?」
係「洋食では海老カツディナカレーとサラダセット、オレンジジュース付き 1440円」
「和食ではアツアツ海老天日本そば大盛りと採れたてアサリの味噌汁、赤かぶの酢漬け付き 1230円」
「中華ではネギみそチャーシュー味噌ラーメンバターコーン炒め、ミニメロンデザート付き 1140円」
でございます。
すみれ「じゃあ、海老カツディナーカレーとサラダセット、オレンジジュース付き1つと、アツアツ海老天日本そば大盛りと採れた
てアサリの味噌汁、赤かぶの酢漬け付き1つをお願いします。」
係「はい、承りました。」
「では、今夜の19:30でご利用お待ちしております。」
すみれ「意外とウブなんですね」「初体験っていつなんですか」
「そんな恥ずかしがることじゃないですよ」
「若いならあたりまえですよ」
「体験がないから、私がやってあげますよ!!」
普段の小気味のいい喋り方やキッパリと言葉をいう、いつもの様子と違うすみれの大人びた振る舞いに、こうたも、いつもと異なる
感覚にさせられた。
妙に大人になったというかもっと歳を重ねたアダルトな気分だった。
すみれ「私はあんまり裕福じゃなかったから、高級車なんかとは縁がないし、まあでも新聞は毎日読んで読書が得意で、身について
いた速読法が幸いして、四年生大学をようやく卒業したの」
こうた「社会でこうやって成人したのだから、少し贅沢してもいいって思うだろ?でもそんなの間違いさ。気が緩めは競争相手に先
を越されるし、社会ってそんなものさ。」
すみれ「私、このままがいい。こうして、先輩の背中に触れることができて、楽させることができるなんて、何か私の欲求が満たさ
れる気がするの」
二人の時間が少し止まった気がしていた。
ゆっくりとした時間の流れがムードの深みを与えている。
こうた「僕たちって、見えない琴線で結ばれているのかもしれないね」
こうた「すみれと初めて逢った時から、少し感じていたんだ。この人だってね。」
でも、それは感情ではない、何かである。
それは予感というべき言葉で表されるかもしれない、ある特別な感覚なのです。
この予感を既視感体験と似ているデジャビュで説明できるなら、
それはデジャビュの感覚を超えた現実の幸福の実現に他ならなかった。
すみれ「わたし、もっと欲求を満たしたいな。食事すれば満足するけど、それ以上はないわ。私どうすればいいのかしら。」
すみれはこうたを強く抱きしめていた。
すみれ「こうかしら」
こうたも、それにやさしく包み込むようにすみれの肩や背中をさするように抱擁した。
こうた「このままでいたい」
こうたはすみれに、恋を超えた、愛を感じ始めていた。
こうたはすみれを静かにそのまま抱き寄せた。
ホテルの1階のカフェテリア「いろどりカフェ」で夕食を嗜んでいる、すみれとこうたである。
二人だけの色濃いムードだった一室での出来事とは裏腹に、いつものテキパキした、すみれとこうたの会話が続いている。
しかしそれはお互いを思いやるこころざしがうかがえる。
こうた「仕事とかであんまり無茶しないんだよ。」
「体が小さいし、細いんだから、食事はしっかり摂るんだよ。」
すみれ「わかっているわ。」
こうた「食事は全ての源。医食同源という故事成語があるようにね。」
「バランスの取れた食事こそ、すみれの体を形作るんだ」
「肉ばっかりでも体は形成されないし、糖分であるご飯と、ミネラルや繊維質である野菜類やサラダも必ず食事で摂ることが大事な
のさ」
すみれ「よくわかってる」
体が小さい割に、みるみる食べるすみれに何かこう、頼もしさを感じるこうたである。
こうた「そうか、それはよかった」
すみれ「この前のおにぎりありがとう。美味しくて実家の母やおばあちゃんを思い出したわ」
すみれ「私も、先輩に何かご褒美あげなきゃって思っていたの」
すみれ「紺色のジャケットのポケットから2枚のチケットを取り出して、こうたに渡した」
「アイドルのコンサートチケットよ」
すみれ「来月の土曜日なんだけど、一緒にいきましょう」
すみれ「一緒に食事して、コンサート見に行って、ホテルに泊まるの」
すみれ「どうかしら」
こうた「わかった。とっても嬉しいよ。一緒に楽しもう。」
こうたの顔の表情がいささか満面の笑みでいっぱいになった。
すみれ「私も嬉しいわ」
すみれも嬉しさで食が進んでいた。
2人はカフェテリアでの夕食を終えて、ホテルの客室に戻った。
室内の時計は19:54を示していた。
2人は別々に入浴を済ませてから、ゆうたは備え付けのバスローブに、すみれは用意してきたパジャマに着替えた。
すみれ「いい湯だったわ」
濡れた髪は後ろに束ねられてアップになっていた。
淡いパステルブルーのパジャマは普段にはないプライベートの彼女の新鮮さを伺わせた。
こうたは、いつもより艶のあるすみれの姿に少し畏怖というか尊敬や尊重するような感覚を覚えていた。
すでにベッドに仰向けで横たわっているこうたには、すでに寝息が聞こえ始めていた。
すみれ「そうか、もう眠ったか。」
「それじゃ、私も休まなきゃね。それじゃちょっと失礼して....」
ダブルサイズあるホテルの客室のベッドにゆっくりと体を寄せるすみれであった。
すみれ「先輩の体って温かいな。」「私も一緒に温まろう」
まるで学校の修学旅行を彷彿とさせる、2人のようであるが、実際の修学旅行では決してこんなことはあり得なかった。
すみれはベッドの中で詩を書いていた。
詩のタイトル「旅びとの恋文」
「私、先輩をとても頼りにしているのよ」
「初めて逢った時から、羨望の眼差しで見ていたの」
「そんな先輩が気遣ってくれて、私は幸せ。」
「おにぎりのご馳走は、ほっぺが落ちるほどおいしい」
「だから、私も先輩に精一杯尽くすつもりなの」
「仲がうまくいかない時もあなたを信じているわ」
「あなたも同じように私を信じてね」
「諍(いさか)いの多い世の中だけど、それを乗り越えて行くつもり」
「母は大いなる海に例えれらるけど、私たちは母に包まれた旅人なのね」
「人生は旅に例えられることが多いけど、自然は容赦無く旅の船を嵐に巻き込むわ」
「だから嵐が来ても、お互い信じあえることを誓うの」
こうた「ううううっっ....ぐぅ」
こうたが寝返りをうって、すみれの体に触れていた。
すみれはそれをいいことにもっと体を寄せた。
すみれは、夢の中の本当の眠りの中に入っていった。
すみれが次に気づいたら、翌朝の午前7時34分であった。
室内の丸テーブルの上には、2人分のサンドイッチとホットミルクが置いてあった。
こうた「おはよう!!すみれちゃん」
すみれ「お、おはよう。」
こうた「軽食のラウンジで朝食のテイクアウトを頼んだんだ」
すみれ「おいしそうね」
丸テーブルを2人で囲み、サンドイッチを頬張っていた。
こうた「昨日はもう勝手に寝てしまったけど、すみれちゃんはよく眠れた?」
すみれ「私は、全然大丈夫。目覚めはとてもいいよ。」
ホテルの窓の外は青空が広がり昨日の豪雨はなんだったのかと思わせる晴天である。
遠くに港が見えていて、とても大きなコンテナ船が出港していく様子が青空に映える。
白いカモメが時折船をよぎる光景が5月の晴れの朝の活動を物語っている。
すみれ「サンドウィッチ食べ終わったら、さぁ、帰社する準備しよ」
すみれは長方形の黒いキャリーケースに持ち物を確認しながら、しまっていった。
自分の持ち物なので片付けはあっという間である。
すみれ「ここに散らかっているシャツや靴下、私が片付けます。」
すみれは部屋中見渡して、こうたの持ち物をこうたのアルミ製のキャリーケースに収納している。
すみれ「ここに、今日の新しいワイシャツと靴下と、下着置いておきます」
「スラックスはアイロンで平らに皺(しわ)を伸ばしておきました。」
こうた「ああ、ありがとう」
こうた「すみれちゃんは支度大丈夫なの」
すみれ「私は大丈夫です。世話をするのが好きなんです。なんでも任せてくださいね。」
そうこうしているうちに時刻は8時53分になっていた。
こうた「そろそろチェックアウトするぞ」
こうた「決済にはこのカードを使ってくれ。会社名で領収書をもらってくれ。」
フロントですみれがチェックアウトを済ませた。
フロント「七海様、またのご利用お待ちしております。ありがとうございました。」
帰路は予定通り帰社して、それぞれは何事もなかったかのように帰宅した。


