ビブリオ俱楽部におまかせ!

「さて、紙谷くんのお悩みは読書感想文がうまく書けないこと――でいいかな?」
「あ、はいっ」
「わっかるわかるぅ。読むなら受け身でいいけど、いざ自分が書き手になると、最初のひと文字すら出てこないもんねぇ」
 
 乃部が口を尖らせる。
 おちゃらけた合いの手はともかく、俺の言いたいこととまったく同じだったので深く頷いた。
 
「そう、そうなんだ。とりあえず通して読んではみた。面白いとは思う。だけど、それをどうやっていい感じにまとめて書けばいいかわからなくて」
「……?」
 
 そこで、今路がこてんと首を傾げた。元からソファの背もたれの後ろ側に隠れているので、そうなると顔の四分の一しか見えなくなる。
 
「……わからない理由が、よく、わからない。感想は、インスピレーション。自分の心が動いた瞬間をわしづかみにして、一本釣り。これでいっちょあがり」
「はああ?」
 
 感想文の話をしているのに、どうして釣りになるんだ。
 すっとんきょうな声を上げた俺に、フォローするように乃部が手を横に振って割って入った。
 
「あーっと! 玲王は芸術家肌なんだ。理性より感性、理屈よりセンス。迷路も勘で切り抜けるタイプってやつかなぁ」
「勘……ちょっと違う。直感。自分の心に素直になれば、教えてくれる」
「はあ……」
 
 そこで今路は傾けていた顔を戻した。ワンテンポズレてるな、こいつ。
 この調子で、読書感想文が書けるようになるんだろうか……。
 よぎった不安が顔に出ていたらしい。
 
「紙谷くん、大丈夫だ」
 
 寒川副部長が俺の肩に手を乗せた。見上げれば、俺と目を合わせて頷いてくれる。
 
「な、なんで……そんなにはっきり、言い切れるんですか」
 
 寒川副部長なら、ちゃんとした答えをくれそうなので聞いてみる。すると、寒川副部長はソファ全体を手でぐるりと指し示した。
 
「君はひとりで悩んで行き詰まって、ここに来たんだろう? だからだよ」
「だから?」
「ここには紙谷くんひとりじゃない。それぞれ考え方の違う人間が4人もいる。そして全員が、君の力になろうとしている。これってすごく心強いことじゃないか?」
「あ……」
 
 寒川副部長に示されるまま、視線を動かす。
 
 独特な今路のセンス。
 俺の悩みに寄り添ってくれる、乃部の優しさ。
 この場を設けてくれた本多部長のリーダーシップ。
 そして、俺の不安にはっきりとした答えをくれた、寒川副部長。
 
 確かに、俺はひとりじゃない。
 
「……っ」
 
 つん、と鼻が痛くなった。
 おかしいな、涙腺は弱くないっていうのに。