ビブリオ俱楽部におまかせ!

「……だめだ、やっぱ全然書けねえ」
 
 ずん、と自室の勉強机に額を落とす。
 このシチュエーション、前にもどこかで見たことあるやつだ。
 
 あの奇妙な出会いの後、俺はなんとか図書室から脱出することに成功した。
 小さなノート片手に追っかけ回してくる本多部長から逃げ切った――と言った方が正しいかな。
 
「さあて2年B組の紙谷文くん、誕生日は? 血液型は? 星座は? 得意科目に苦手科目、好きなおかず、なんでも話してくれたまえっ」
「個人情報の宝庫じゃねーか! そもそも俺、入部するなんて言ってないし、入部届けだって書いてないですよね?」
 
 カバディみたいに、息つく間もなく張りついてくる本多部長……マジで怖かった。
 顔……というかあのテンションが。
 あんなに元気なら、文化部じゃなくて運動部でもやっていけるだろ。
 
 見かねた寒川副部長が、後ろから本多部長を羽交い締めにして「ここは俺に任せてお前は行けー!」と助け舟を出してくれなかったら、どうなっていたことやら。
 思いっきりフラグ立てまくってたな、寒川副部長。やっぱりあの人は苦労性だ。

 そんなこんなで貸出手続きを終えて、図書室から命からがら持ち帰ったのがこの本。
 ろきぴの推し本……『はじけろ!デコボコパーツ』なのだけど。
 
「うーん……」
 
 一度、ざっと読んでみた。
 
 あらすじはろきぴの紹介通り。
 俺たちくらいの年代の少年少女が活躍する、冒険ストーリーだ。
 主人公はクールな一匹狼。とある厄介な状況に巻き込まれて、4人の仲間とチームを組むことになる。
 仲間はそれぞれの分野のスペシャリストだけど、見事なまでに協調性ゼロ。自分の関係ないことには一切関わろうとしない、冷たいやつらだ。
 だけど彼らに持ち込まれたある一件の依頼が、主人公たちを変えていく。
 バラバラに行動しているのは前と同じ。だけど、自分ができない分野は仲間を頼ることによって、前の自分じゃ出せない力を発揮していくのだ。
 すべて順調に進んでいくかに見えたけど、ある重要な場面で主人公はドジって計画がパァ。大ピンチに陥ってしまう。
 だけどその大ピンチすら力に変えたのは、一見バラバラに行動していた仲間の機転だった。
 
「ここからの逆転劇がわくわくするんだよなあ……。カタルシスっつーの? ラストに向けてぐわーっと一気に読んじゃう感じ」
 
 ろきぴの推し本、という色眼鏡なしでもこれは面白かった。
 カッコイイやつらの、クールでアツい大活躍。
 ろきぴはこういう話が好きなんだな、と推しの好みについて知れたのも、プラスアルファの魅力だ。
 
 だ、け、ど!
 
「それとこれとは別物なんだよ……感想文にならねえええ」
 
 頭の中に浮かんでる感想をかき集めて、手元の紙にメモしてみる。
 ペンを動かすたびに、クリップにプリントされたインコが揺れた。
 実はこれ、ろきぴの概念グッズとして買った宝物である。
 そんな特別なペンをもってしても、出てくる文はパッとしない。
 
『面白かったです』
『友情の大切さを学びました』
『わくわくしました』
 
「……ってアホ丸出しじゃねえか!」

 違う。
 本を読んでた時に感じたのは、こんなありきたりの感情じゃなかった。
 友情の大切さとか、そういうお手本みたいなフレーズで俺の気持ちを終わらせたくない。
 なにより、こんな文じゃろきぴに対して申し訳なさすぎる!
 
 たかが読書感想文の宿題で、こんなにアツくなるのも恥ずかしい気持ちはある。
 適当に「仲間と力を合わせることは大切だと改めて思いました」とか書いておけば、それっぽくごまかせるのも知ってる。
 
 だけど、この本は他の本と違う。
 ろきぴに薦められて、俺がはじめて図書室で借りた記念すべき本なのだ。
 いわば推しとの繋がりだ。
 それに、俺はこの本で読書感想文を書くことをろきぴにコメントするつもりなのだ。
 仮に、万が一、ろきぴから「その感想文読ませて♡」 なんてレスが来た時に、胸を張って読まれる文章を書きたい。
 
 そのために、俺に何ができるかというと……。
 
 そこで、彼らの顔が浮かんだ。
 おっかなびっくり図書室に入った俺を、ハイテンションで迎えてくれた本多部長。
 それにツッコミつつ、この本を探してくれた寒川副部長。
 
「……読書クラブなら、感想文の書き方とか、教えてくれるかな」
 
 本多部長はともかく、寒川副部長なら可能性は高い。
 
「……よし。明日、もう一度図書室に行こう」
 
 こうして俺は、今度は自分からビブリオ倶楽部に関わってみようと思ったのだった。