「名も知らぬ後輩くん、君は今日からビブリオ倶楽部の一員だっ!」
「はああ!?」
「放課後にこんなところまで来てるってことは、他の部活に入ってないんだろ? ちょうどいいじゃないか。ハツラツとした学生生活には、部活動がつきものさ」
……まがりなりにも読書クラブの部長なのに、図書室をこんなところとか言うか。
「おい、まだ本人の意向も聞いていないんだぞ」
常識人枠の眼鏡男子が止めようとしたけれど、部長はさっぱり止まる気はないらしい。
「大丈夫! ビブリオ倶楽部は自由気まま。兼部も歓迎だし、部費だってほとんどかからないし、コスパの良さでは右に出るものなしだぞ」
お、おお。それは確かに魅力的だ。
それに俺は部活に入っていないから、兼部じゃなくて専属になるわけだけど……。
「名乗るのが遅くなったな。俺は本多司! 多い本を司ると書く。ビブリオ倶楽部の部長だ」
「ほ、本多?」
読書クラブの部長が本多って、おあつらえ向きすぎだろ。
名は体を表すと言うけれど、ここまでぴったりすぎると、親すげえ、と感心するしかない。
そこではたと気がついた。
俺だって、そういう意味では充分太刀打ちできるレベルってことに。
「で、新進気鋭の新入部員くん。君の名前は?」
「えっと……」
内ポケットから生徒手帳を取り出して見せた。
刑事モノのドラマで、警察が自己紹介するシーンみたいだな。
「紙谷文です。漢字はこう書きます」
生徒手帳をまじまじと見つめる本多部長と眼鏡男子。
「紙の谷と書いて紙谷……そして文」
「あっはっは、こいつは傑作だ!」
何が傑作なんだかわからないけれど、なんとなくニュアンスはわかる。
図書室に紙だの文だの、ぴったりすぎて怖いくらいだ。
「アメイジング!」
そこに突然、歓声と拍手が降り注ぐ。
おいおい、図書室はお静かに――ってお約束はどこに行ったんだ?
書架の手前にあるソファー席から、足取りも軽く飛び出してきたのは、くるくると綿あめみたいな髪をした男子だった。
あ、こいつ見たことある。隣のクラスだ。
「まさにとってもドラマチック! 物語が始まりそうな気配にドキドキだよぉ!」
「お、ロマンが読書中に出てくるなんて珍しいな」
「だって事実は小説よりも奇なり、でしょ?」
「だなー!」
にこにこと笑いあってる。どうやらこのふたり、気が合ってるみたいだ。
そしてハイテンションな綿あめ男子は、手にしたままの分厚いハードカバーの単行本を机に置いてこちらを向いた。
机からはどすっと音がする。
おい、それ全部で何ページあるの?
「俺、乃部ロマン。紙谷くんって、確か隣のクラスだよね?」
「あ、ああ」
「嬉しいな。同い年の部員が増えた!」
握手――というか手を握られたまま腕をものすごい力で上下に揺らされて、体ごと俺の視界ががっくんがっくん揺れる。
な、なんだこいつ、喋りも髪型も全体的にふわふわしてるくせに、腕力強いな!
「部員はもうひとりいるんだよ。ねえねえ玲王ー! せっかくだからこっち来なよ。本は逃げていかないよぉ?」
なんだ、まだ居たのか。
つーか図書室ってガラガラかと思いきや、意外と利用者多いんだな。
乃部の視線を追うと、こちらに背を向けて座っている男子がひとり。
「玲王ってば!」
ととと、と小走りに駆け寄った乃部が正面に回り込むと、そいつはようやく気がついたみたいだった。
「……ロマン、か」
「そ。新入部員だよ。あいさつしよ? 本は待っててくれるからさ」
「本は……待つ。だけど、インスピレーションが過ぎ去るのは、一瞬……」
ぽつり、ぽつり。
降り出した雨みたいに、途切れ途切れに揺れる背中がゆっくり立ち上がってこちらを向いた。
眠たそうな瞳に、それを隠そうとする長い前髪。
ひと括りに結ばれたポニーテールをさらりと揺らして、そいつは俺を見た。
「……はじめまして。ぼくは今路玲王。好きなのは……画集や写真集。理由は……風景の一瞬を閉じ込めてる、タイムカプセルみたいだから」
無表情かと思いきや、語尾のあたりでうすく微笑んだ。こういう影のある男子って女子にモテそうだよな。
っていうか。
「はじめまして、じゃないだろ。俺ら同じクラス。しかも同じ班じゃん」
「…………そう……?」
そう。今路玲王は同級生だ。
五十音順の出席番号で班を分けているので、「い」の今路と「か」の俺は同じ班なのである。
掃除当番や週番など、クラスのささやかな仕事においては運命共同体といってもいい。
そんな俺を覚えてなかった今路は、なかなかのマイペース野郎だ。
……ん、待てよ。俺の影が薄い可能性もあるのか?
「あはは、玲王は相変わらずだなあ」
乃部はけらけらと笑っている。
どうやら問題は今路の記憶力であって、俺の存在感ではなさそうだ。
「よし、これで自己紹介は済んだな」
ふふふん、と満足げな鼻歌交じりに本多部長が割り込んでくる。
「司、おい待て」
くるりと全員を見渡した本多部長が両腕を広げると、それに沿って今路と乃部が両サイドに並ぶ。
「紙谷文くん、ビブリオ倶楽部へようこそ!」
ち、ちょっと待ってくれ。
俺、自己紹介しただけだぞ!?
まだ入部するとも言ってないし。
何よりもまず、ろきぴの推し本を読まなきゃいけないし。
言いたいことはいくつもあるけど、何から言えばいいかわからない。
すると、本多部長の後ろからひょいっと抜けでた副部長が、内緒話をするように寄ってきた。
「副部長の寒川博規だ。ま、よろしく頼む」
「は、はあ」
唯一話が通じそうな眼鏡男子もこの調子だ。
さては寒川副部長、苦労人ポジションだな?
図書室に本を借りに来ただけなのに、こんなヘンテコリンな部活に入ることになるなんて……。
俺の学校生活、これからどうなるんだ?
「はああ!?」
「放課後にこんなところまで来てるってことは、他の部活に入ってないんだろ? ちょうどいいじゃないか。ハツラツとした学生生活には、部活動がつきものさ」
……まがりなりにも読書クラブの部長なのに、図書室をこんなところとか言うか。
「おい、まだ本人の意向も聞いていないんだぞ」
常識人枠の眼鏡男子が止めようとしたけれど、部長はさっぱり止まる気はないらしい。
「大丈夫! ビブリオ倶楽部は自由気まま。兼部も歓迎だし、部費だってほとんどかからないし、コスパの良さでは右に出るものなしだぞ」
お、おお。それは確かに魅力的だ。
それに俺は部活に入っていないから、兼部じゃなくて専属になるわけだけど……。
「名乗るのが遅くなったな。俺は本多司! 多い本を司ると書く。ビブリオ倶楽部の部長だ」
「ほ、本多?」
読書クラブの部長が本多って、おあつらえ向きすぎだろ。
名は体を表すと言うけれど、ここまでぴったりすぎると、親すげえ、と感心するしかない。
そこではたと気がついた。
俺だって、そういう意味では充分太刀打ちできるレベルってことに。
「で、新進気鋭の新入部員くん。君の名前は?」
「えっと……」
内ポケットから生徒手帳を取り出して見せた。
刑事モノのドラマで、警察が自己紹介するシーンみたいだな。
「紙谷文です。漢字はこう書きます」
生徒手帳をまじまじと見つめる本多部長と眼鏡男子。
「紙の谷と書いて紙谷……そして文」
「あっはっは、こいつは傑作だ!」
何が傑作なんだかわからないけれど、なんとなくニュアンスはわかる。
図書室に紙だの文だの、ぴったりすぎて怖いくらいだ。
「アメイジング!」
そこに突然、歓声と拍手が降り注ぐ。
おいおい、図書室はお静かに――ってお約束はどこに行ったんだ?
書架の手前にあるソファー席から、足取りも軽く飛び出してきたのは、くるくると綿あめみたいな髪をした男子だった。
あ、こいつ見たことある。隣のクラスだ。
「まさにとってもドラマチック! 物語が始まりそうな気配にドキドキだよぉ!」
「お、ロマンが読書中に出てくるなんて珍しいな」
「だって事実は小説よりも奇なり、でしょ?」
「だなー!」
にこにこと笑いあってる。どうやらこのふたり、気が合ってるみたいだ。
そしてハイテンションな綿あめ男子は、手にしたままの分厚いハードカバーの単行本を机に置いてこちらを向いた。
机からはどすっと音がする。
おい、それ全部で何ページあるの?
「俺、乃部ロマン。紙谷くんって、確か隣のクラスだよね?」
「あ、ああ」
「嬉しいな。同い年の部員が増えた!」
握手――というか手を握られたまま腕をものすごい力で上下に揺らされて、体ごと俺の視界ががっくんがっくん揺れる。
な、なんだこいつ、喋りも髪型も全体的にふわふわしてるくせに、腕力強いな!
「部員はもうひとりいるんだよ。ねえねえ玲王ー! せっかくだからこっち来なよ。本は逃げていかないよぉ?」
なんだ、まだ居たのか。
つーか図書室ってガラガラかと思いきや、意外と利用者多いんだな。
乃部の視線を追うと、こちらに背を向けて座っている男子がひとり。
「玲王ってば!」
ととと、と小走りに駆け寄った乃部が正面に回り込むと、そいつはようやく気がついたみたいだった。
「……ロマン、か」
「そ。新入部員だよ。あいさつしよ? 本は待っててくれるからさ」
「本は……待つ。だけど、インスピレーションが過ぎ去るのは、一瞬……」
ぽつり、ぽつり。
降り出した雨みたいに、途切れ途切れに揺れる背中がゆっくり立ち上がってこちらを向いた。
眠たそうな瞳に、それを隠そうとする長い前髪。
ひと括りに結ばれたポニーテールをさらりと揺らして、そいつは俺を見た。
「……はじめまして。ぼくは今路玲王。好きなのは……画集や写真集。理由は……風景の一瞬を閉じ込めてる、タイムカプセルみたいだから」
無表情かと思いきや、語尾のあたりでうすく微笑んだ。こういう影のある男子って女子にモテそうだよな。
っていうか。
「はじめまして、じゃないだろ。俺ら同じクラス。しかも同じ班じゃん」
「…………そう……?」
そう。今路玲王は同級生だ。
五十音順の出席番号で班を分けているので、「い」の今路と「か」の俺は同じ班なのである。
掃除当番や週番など、クラスのささやかな仕事においては運命共同体といってもいい。
そんな俺を覚えてなかった今路は、なかなかのマイペース野郎だ。
……ん、待てよ。俺の影が薄い可能性もあるのか?
「あはは、玲王は相変わらずだなあ」
乃部はけらけらと笑っている。
どうやら問題は今路の記憶力であって、俺の存在感ではなさそうだ。
「よし、これで自己紹介は済んだな」
ふふふん、と満足げな鼻歌交じりに本多部長が割り込んでくる。
「司、おい待て」
くるりと全員を見渡した本多部長が両腕を広げると、それに沿って今路と乃部が両サイドに並ぶ。
「紙谷文くん、ビブリオ倶楽部へようこそ!」
ち、ちょっと待ってくれ。
俺、自己紹介しただけだぞ!?
まだ入部するとも言ってないし。
何よりもまず、ろきぴの推し本を読まなきゃいけないし。
言いたいことはいくつもあるけど、何から言えばいいかわからない。
すると、本多部長の後ろからひょいっと抜けでた副部長が、内緒話をするように寄ってきた。
「副部長の寒川博規だ。ま、よろしく頼む」
「は、はあ」
唯一話が通じそうな眼鏡男子もこの調子だ。
さては寒川副部長、苦労人ポジションだな?
図書室に本を借りに来ただけなのに、こんなヘンテコリンな部活に入ることになるなんて……。
俺の学校生活、これからどうなるんだ?



