「……び、ビブリオ?」
ぽかんとあっけにとられたまま復唱する俺に、カウンターの彼はうんうんと頷いている。
「フランス語で図書室はビブリオテーク。ちょっと長いから略してビブリオ。何の因果か細菌と同じ名前になったけど、そこには触れないでくれると助かる。bとvでスペルは違うからな」
「細菌?」
何を言ってるんだこの人は。
そこに「おっほん」とわざとらしい咳払いが割り込んでくる。
声の主は眼鏡男子だ。
「情報量が多い。つまり読書クラブだ」
「ああ、なるほど」
眼鏡男子は、ものすごくシンプルに俺に説明してくれた。ようやく話が通じてほっとする。
「なんだよう博規〜、せっかく凝りに凝った俺のネーミングセンスを披露する、いい機会だったのに〜」
カウンターに突っ伏して駄々をこねているもうひとりは、どうにもご不満のようだけれど。
そして眼鏡男子は、チャッと眼鏡のブリッジを上げて小さくため息をついた。
わ、典型的な眼鏡キャラの仕草だ。
「どれだけ凝ろうが、伝わらなければ意味がないだろ」
「そこをうまいことするのが、副部長たる博規のお仕事〜!」
「あのな、副部長は部長の補佐役。雑用役じゃない」
どうやらこのふたり、仲がいいらしい。
眼鏡男子が副部長で、カウンターで駄々こねてるのが部長ってことか。
俺という部外者そっちのけで、コントみたいなやりとりが続いてる。
ちょっと面白いけど、俺は漫才を見に来たわけじゃないのだ。
「あ、あの、すみません、俺……」
肩をすぼめながらもそっと挙手してみれば、眼鏡男子がはっと気づいてくれた。
「あー、悪い。図書室に用があったんだよな。本を探しているのか?」
「は、はい。実はこの本を」
そこで俺はスマホを取り出した。
ろきぴの配信画面のスクショを見せると、眼鏡男子はきょとんと目を丸くした。
あー、真面目一徹って感じだからな。VTuberとか知らなさそう。
「ええと、読書感想文の宿題用の本を探してて……この子、俺の推しなんですけど……VTuberのろきぴ。この子がオススメしてる本で書いてみようかと思って」
「あ……ああ、なるほど。待っててくれ。書名から検索してくる」
眼鏡男子は、俺のしどろもどろな説明でも理解してくれたらしい。カウンター脇の検索機に向かうと、なにやら操作を始めた。
すごいな。ちょっとしか画面を見せてないのに、タイトルを覚えたのか。
よどみなく動く指先を尊敬のまなざしで見つめていると、背中にぴたりと寄り添う気配がした。
「なあなあ、ビブリオ倶楽部に入るつもりはないか?」
「うおわああ!?」
駄々こねてた部長(仮)だった。いつのまにカウンターから出てきたんだ!?
「シーッ。図書室では、お・し・ず・か・に」
ぴんと立てた人差し指を唇に寄せられて、慌てて手で口を覆う。こくこくと頷くと、彼は「よろしい」とウィンクした。
……誰のせいで大声出したと思ってるんだ。
「読書感想文を真面目に書こうなんて、見上げた志じゃないか。君、読書は好きか?」
声を出さないまま答えようとして、どうしたものか迷う。
実際のところ、好きでもないし、嫌いでもない。
気が向けば読むし、ぶっちゃけ小説よりマンガの方が好きだ。
だから、首を傾げることで答えにする。
すると、駄々こね部長はぷっと噴き出した。
なんだその反応。聞いてきたのはそっちだろ。
「いやいや、悪い。つくづく真面目だな」
真面目……そうか?
いまいちピンとこなくて首を傾げたままにしてると、部長はうんうんと何度も頷いている。
「あまりそいつに取り合わない方がいい。ペースに巻き込まれて自分を見失うぞ」
「博規~、さっきから俺に対する当たりが強くないか!?」
「うるさい。図書室では静かにしろ。それより君」
「えっ」
すっと目の前に差し出されたのは一冊の本。
ろきぴが紹介してくれたものと、まったく同じ表紙だ。
「わ……!」
「これで間違いないか?」
「え、あ、はいっ!」
慌ててスクショと見比べる。
念のために並べて確認したけれど、間違いなくろきぴの推し本だった。
「すげえ! ありがとうございます!」
駄々こね部長に絡まれてる間に探してきてくれるなんて、この眼鏡男子、めっちゃいい人だ!
本を両手で握りしめたまま深く頭を下げる。
「君、礼儀正しいな」
「そうですか? 親切にしてもらったので……普通だと思いますけど」
「お、博規もそう思う? こういう前途ある後輩に後進を託したいよなあ」
……ん? またもやふたりの間で何か盛り上がってる?
そしてそれは、俺に関係することだったりしてる?
「よし、決めた!」
ぽん、と手を叩いた部長が仁王立ちになる。
片手は腰に、もう片方の手は……びしりと俺に向けられた。
ぽかんとあっけにとられたまま復唱する俺に、カウンターの彼はうんうんと頷いている。
「フランス語で図書室はビブリオテーク。ちょっと長いから略してビブリオ。何の因果か細菌と同じ名前になったけど、そこには触れないでくれると助かる。bとvでスペルは違うからな」
「細菌?」
何を言ってるんだこの人は。
そこに「おっほん」とわざとらしい咳払いが割り込んでくる。
声の主は眼鏡男子だ。
「情報量が多い。つまり読書クラブだ」
「ああ、なるほど」
眼鏡男子は、ものすごくシンプルに俺に説明してくれた。ようやく話が通じてほっとする。
「なんだよう博規〜、せっかく凝りに凝った俺のネーミングセンスを披露する、いい機会だったのに〜」
カウンターに突っ伏して駄々をこねているもうひとりは、どうにもご不満のようだけれど。
そして眼鏡男子は、チャッと眼鏡のブリッジを上げて小さくため息をついた。
わ、典型的な眼鏡キャラの仕草だ。
「どれだけ凝ろうが、伝わらなければ意味がないだろ」
「そこをうまいことするのが、副部長たる博規のお仕事〜!」
「あのな、副部長は部長の補佐役。雑用役じゃない」
どうやらこのふたり、仲がいいらしい。
眼鏡男子が副部長で、カウンターで駄々こねてるのが部長ってことか。
俺という部外者そっちのけで、コントみたいなやりとりが続いてる。
ちょっと面白いけど、俺は漫才を見に来たわけじゃないのだ。
「あ、あの、すみません、俺……」
肩をすぼめながらもそっと挙手してみれば、眼鏡男子がはっと気づいてくれた。
「あー、悪い。図書室に用があったんだよな。本を探しているのか?」
「は、はい。実はこの本を」
そこで俺はスマホを取り出した。
ろきぴの配信画面のスクショを見せると、眼鏡男子はきょとんと目を丸くした。
あー、真面目一徹って感じだからな。VTuberとか知らなさそう。
「ええと、読書感想文の宿題用の本を探してて……この子、俺の推しなんですけど……VTuberのろきぴ。この子がオススメしてる本で書いてみようかと思って」
「あ……ああ、なるほど。待っててくれ。書名から検索してくる」
眼鏡男子は、俺のしどろもどろな説明でも理解してくれたらしい。カウンター脇の検索機に向かうと、なにやら操作を始めた。
すごいな。ちょっとしか画面を見せてないのに、タイトルを覚えたのか。
よどみなく動く指先を尊敬のまなざしで見つめていると、背中にぴたりと寄り添う気配がした。
「なあなあ、ビブリオ倶楽部に入るつもりはないか?」
「うおわああ!?」
駄々こねてた部長(仮)だった。いつのまにカウンターから出てきたんだ!?
「シーッ。図書室では、お・し・ず・か・に」
ぴんと立てた人差し指を唇に寄せられて、慌てて手で口を覆う。こくこくと頷くと、彼は「よろしい」とウィンクした。
……誰のせいで大声出したと思ってるんだ。
「読書感想文を真面目に書こうなんて、見上げた志じゃないか。君、読書は好きか?」
声を出さないまま答えようとして、どうしたものか迷う。
実際のところ、好きでもないし、嫌いでもない。
気が向けば読むし、ぶっちゃけ小説よりマンガの方が好きだ。
だから、首を傾げることで答えにする。
すると、駄々こね部長はぷっと噴き出した。
なんだその反応。聞いてきたのはそっちだろ。
「いやいや、悪い。つくづく真面目だな」
真面目……そうか?
いまいちピンとこなくて首を傾げたままにしてると、部長はうんうんと何度も頷いている。
「あまりそいつに取り合わない方がいい。ペースに巻き込まれて自分を見失うぞ」
「博規~、さっきから俺に対する当たりが強くないか!?」
「うるさい。図書室では静かにしろ。それより君」
「えっ」
すっと目の前に差し出されたのは一冊の本。
ろきぴが紹介してくれたものと、まったく同じ表紙だ。
「わ……!」
「これで間違いないか?」
「え、あ、はいっ!」
慌ててスクショと見比べる。
念のために並べて確認したけれど、間違いなくろきぴの推し本だった。
「すげえ! ありがとうございます!」
駄々こね部長に絡まれてる間に探してきてくれるなんて、この眼鏡男子、めっちゃいい人だ!
本を両手で握りしめたまま深く頭を下げる。
「君、礼儀正しいな」
「そうですか? 親切にしてもらったので……普通だと思いますけど」
「お、博規もそう思う? こういう前途ある後輩に後進を託したいよなあ」
……ん? またもやふたりの間で何か盛り上がってる?
そしてそれは、俺に関係することだったりしてる?
「よし、決めた!」
ぽん、と手を叩いた部長が仁王立ちになる。
片手は腰に、もう片方の手は……びしりと俺に向けられた。



