ビブリオ俱楽部におまかせ!

 いよいよ、ろきぴの卒業配信の日となった。
 ベッドの上で正座して配信を見ていた俺は……。
 俺は……!!
 
「……ずびっ」
 
 何枚目かのティッシュを引き抜き、ちーんと鼻をかむ。
 
『ありがとう、ペーパーホワイトさん! ろきぴの推し本を読んで読書感想文を書いてくれたなんて、ほんっとうに嬉しい! それに、こんなに心のこもったお手紙を送ってくれるなんて……どうしよう、言葉が見つからないよ』
 
 ボイスチェンジャー越しでもわかるほどに、ろきぴは涙声だった。
 
 ああ、俺の手紙でろきぴを泣かせてしまった……!
 
 そう罪悪感に駆られる反面、俺の手紙がろきぴの心を揺り動かしたんだなあと思うと、謎の達成感に包まれてもいる。
 青少年のハートはかくも複雑なのだ。
 ちなみに、ペーパーホワイトとは俺のペンネームである。紙谷をもじってつけた即席の名前だ。
 即席の名前だろうとなんだろうと、俺の書いた手紙を推しが読んでくれている。あまつさえ、コメントまでくれたのだ。
 俺の人生でこんなに満たされたことがあっただろうか。
 
 画面横のコメント欄には「すごい。ファンの鑑だ」「私も読んでみようかな」「ろきぴ良かったねー」と好意的なコメントが流れていくのが見えた。
 改めて、この日を迎えるまでのことを思い出す。
 
 読書感想文を書こうと思い立ったこと。
 本を探しに図書室に行き、ビブリオ倶楽部と出会ったこと。
 あれこれといろんな本にめぐり会ったこと。
 ろきぴの卒業にショックを受けた俺を励ましてくれたこと。
 ……そして、手紙を書くまでのあれやこれやの大騒ぎまで。
 
 どこの部活にも入らず万年帰宅部だった俺が、なんとビブリオ倶楽部の次期部長になってしまった。
 ここ数週間で、俺の学校生活は今までの10倍速くらいで目まぐるしく動いた気がする。
 
「それもこれも、ろきぴのおかげだもんなあ……推しはかくも偉大なり」
 
 画面に映るろきぴの頭をそっと撫でる。
 肩に乗せたオカメインコがぴょこぴょこ跳ねた。
 
『ろきぴは今日で配信者を卒業します。今までの配信で、いろんなことがありました。楽しいこと、びっくりしたこと、そしてちょっと大変だったことも……』

 そうだよな。ろきぴだっていろんな苦労を乗り越えて、今日までやってきたんだ。
 普通の学生生活とVTuberを両立するなんて、想像するだけで大変だってわかる。

『でも、その日々があったからこそ今日のろきぴがここにいます! リアルが大変でも、ここに来ればみんなとお話ができる。コメント欄を見ていると、みんなもそれぞれがんばっていて……大変なのは自分だけじゃないって励まされました。大変なこと以外にも、好きなことを発信したら何倍にもなって返ってくるのは、この場所ならではの魅力だと思います。最後にとっても素敵なプレゼントも頂きましたし!』
 
 そこで画面がパッと変わる。
 ろきぴの推し本――『はじけろ!デコボコパーツ』と俺の送ったメールがそろって映し出されていた。

 うっ、最後の最後に推しとコラボしてるなんて、幸せ過ぎてどうにかなりそうだ……!

 感動を噛みしめている間に、画面はいつものろきぴに戻っていた。
 
『あー……っと、そろそろお時間です。最後になりましたが、この配信に関わってくれたみなさん、本当にありがとう! またどこかで会える日が来たら、ろきろきーって呼んでくれると嬉しいです! なので、さよならは言いません』

 そこでろきぴがぐっとカメラに寄った。ズームアップされたろきぴの瞳が、きらきらと輝いている。
 このイラストは初めて見るものだ。
 くそう、1回こっきりの新規絵かよっ! ぜいたくすぎだろ!
 ろきぴ、最後までサービス精神たっぷりだ!

『最後はみんなでー……せえのっ』

 すう、と息を吸う。鼻をかんでる場合じゃない!

「ろきろき〜!!」

 画面の向こう側とこちら側で、きれいなユニゾンが響いていた。
 じきに、ろきぴの姿がフェードアウトして、いつもの止め絵に移り変わる。
 BGMが最後の一音を終えるまで、俺は画面を見つめ続けていた。