ビブリオ俱楽部におまかせ!

 翌日の放課後、俺は図書室へと歩いていた。
 普段は図書室を使わないから、なんだか妙に緊張する。
 普通教室棟と特別教室棟に校舎が分かれているから、図書室に行くにはわざわざ渡り廊下を使わないといけない。要するにめんどくさいのだ。
 
「図書室なんて、行くのいつぶりだ……?」
 
 ひょっとして新入生の時、校内案内の時以来か?
 ちゃんと本が見つかるかな。
 なかったら取り寄せかあ……司書さんに頼まなきゃいけないのかな。
 う、緊張する。
 担任と話すのだってちょっとビビるのに、ほぼ面識のない大人に頼み事をするってハードル高すぎだろ。
 
「いやいやいや、ろきぴのためだ」
 
 ぶんぶんと頭を振って歩いていると、図書室が見えてきた。
 扉にはオープンと書かれた看板が下がっている。クローズされてなくてよかった。
 ひとまずは空振りじゃなくてほっとする。
 ドアノブを見つめる。
 
 ……え、入る時ってノックすべき?
 いや、保健室じゃないからいいのか?
 待てよ。図書室って静かにしてなきゃだめな部屋だから、むしろノックはだめなのか?
 
「うえええええ……?」
 
 やばい。どーしよう。
 図書室に入れない。
 本が見つからないとかそれ以前の問題だろ。
 このまま入れないですごすご帰るなんて、みっともなさすぎだ。
 
「ゆ、勇気を出せー俺、ろきぴが背中押してくれたんだから!」
 
 えいえいおー、と小声で自分を励ましてドアノブを握る。
 
「ろきぴ、俺に力を!」
 
 そのとたん、勝手にドアノブががくんと下がった。
 
「うおっ」
 
 内開きのドアが開いて、ドアノブを握ったまま中に引き込まれる。
 
「うわっとっと……」

 なんだ、どうした。
 ろきぴパワーが、ついに俺の眠れる超能力を呼び覚ましたのか?
 
「ろきぴ……?」

 推しの名前にばっと顔を上げる。
 そこにいたのは、もちろんインコを肩に乗っけたろきぴではなかった。
 女子でもない。
 普通の眼鏡男子だ。
 普通に真面目そうで、面白みがなさそうな優等生。
 
「あ、えっと……」
 
 今のつぶやき、聞かれてた?
 カンペキ俺、不審者じゃん。
 つーか、この人誰だろう。見たことないし、大人っぽいから先輩かな。
 
「す、すいません、俺……帰りますっ」
「え? おい、君」
 
 三十六計、逃げるに如かず。
 昔の人はそう言ったらしい。
 何が三十六なのかわからないけど、とにかく逃げるしかないっ!
 はじかれたようにドアノブから手を離す。Uターンしてそのままダッシュ……と行きたかったんだけど。
 
「おいおい、せっかちだな。そんなに急がなくても、本は逃げていかないぜ?」
 
 眼鏡男子の後ろから声がした。
 芝居がかった言い回し。
 アニメや漫画なら、口元だけが映されていそうな、もったいつけた登場シーンだ。
 俺の動きが止まったところで、眼鏡男子がドアを開け放って中の様子が見えるようにした。
 受付カウンターの奥に人影。
 学校の図書室には不釣り合いなティーセットに囲まれたその人は、頬杖をついてこちらを見ていた。
 やっぱり見覚えのない男子生徒だ。
 まっすぐな視線が悪戯っぽく細められる。
 
「はじめまして。そして――ビブリオ倶楽部へようこそ!」
 
 窓から射し込む夕暮れの粒がきらきらと反射して、カウンター内を彩っている。
 その中で笑ってみせた彼は、図書室の主のように堂々としていた。