ビブリオ俱楽部におまかせ!

 放課後、ビブリオ倶楽部に行こうとしたが、厄介な――いや、大切なことを思い出す。
 
 俺たちの班、今週は教室掃除当番だった……!
 
  ぱーっとホウキを掃いて終わりな廊下や階段と違って、ホウキがけはもちろん、床の雑巾がけに黒板のチョーク置き場の整頓にと、教室掃除は地味にやることが多い。
 
「しゃーない。やるかあ」
 
 なんでこんな時に限って……と思いつつ、ホウキを動かす。すると、岡野が「おわっ」ととびのいていた。

「どうした?」
 
 しぼった雑巾を握りしめて座り込んだ岡野に声をかける。

「あれ、見てみろよ」
「あれ?」
 
 岡野が指さした先には、ロケット並の速度で床の雑巾がけをする今路が駆け抜けていった。

「は、速えええ!!」
「なんだどーした、今路、覚醒したのか!? リミッター解除か!?」
 
 普段の単語だけで会話する独特のスタイル通り、日常生活全般の動作がのんびりした今路が、爆速で雑巾がけを終わらせている。
 岡野とそろってF1観戦レベルに騒いでいると、くるりと教室の壁にぶつかる勢いで、端から端まで雑巾をかけ終えた今路がきっと振り向いた。

「い、今路?」
「雑巾、終わり。紙谷、ホウキは」
「え? あー、もうちょいで終わる、かな……っとお!?」
 
 つかつかと歩いてきた今路にホウキを握られる。
 そのまま爆速でホウキがけが始まって、手を離すタイミングを失った俺はホウキごと振り回されて、足を容赦なくホウキの柄にぶつけまくった。
 
「いてっ、おい、今路! 待て!」

 ガッガッガッ、とスネに当たるホウキから逃げようと必死に動かす。この足さばきはまるでタップダンスだ。
 
 くっ、俺にはタップダンスの才能まであったのか……!
 
 このまま今路と肩を組んで手を握れば一曲踊れるかもしれない……とバカな妄想をしかけたところで、今路の超高速ホウキがけは終了したらしい。
 
「チリトリ、ぷりーず」
 
 今路が手をつきだした先には、雑巾がけを忘れてダンスの観客となっていた岡野が座っていた。その隣にチリトリが置いてある。
 
「えっ……ああ、これ?」
 
 岡野が差し出したチリトリを掴んだ今路は、ぐっと深く頷いた。
 
「ありがと、サンクス」
 
 それ、二重敬語ならぬ多重感謝じゃね?
 まあ、感謝はいくら増えてもいいのか。
 ……ん? 今路、もしやこの爆速でゴミまとめをする気か……?
 俺の予想は、当たった。

「いざ」
 
 シャカシャカシャカシャカ…………!!
 
 1箇所にまとめられていたホコリやゴミが、掃除機レベルの吸引力でチリトリに吸い寄せられていく。
 
 今路、ついにお掃除ロボットを越えたか……!
 だが、手放しで喜んではいられない。
 
「ちょ、今路! ホコリ舞うから! もーちっとゆっくり! まとめた意味なくなるだろ! スロー! スロー! クィッククイック! あれ? このかけ声、結局速くなるやつ!?」
 
 ぶえっくしょい、とクシャミを連発する俺は、今路のホウキとチリトリの操縦術に巻き込まれる。
 チリトリにまとめたものをゴミ箱に捨て終えた今路は、ふうと小さく息をついた。
 
「おっけー。片付け、お願い」
「お? おう?」
 
 今路が放り出したホウキとチリトリは、岡野の手に吸い込まれていった。
 岡野自身、どうして自分がキャッチしたのかわからない顔をしている。
 
「よし。紙谷」
 
 きりっと凛々しいまなざしで見つめられる。
 いつもの眠そうな瞳はどこに行ったんだ。
 
「いざゆかん、ビブリオ倶楽部」
 
 おう、と返事もしていないのに、手首を掴まれて今路と共に走り出す。
 
「おわあっ!?」
「……よ、よくわかんないけどがんばれよー!?」
 
 岡野の声援を背中に受けて廊下を走る。
 前には俺を引っ張る今路、後ろには岡野の声援。
 
 なんだか、俺、人気者みたいじゃない?
 そんなことを考えていたら、階段で盛大にコケた。
 …………走るなキケン、ってこういうことか。