ビブリオ俱楽部におまかせ!

「俺たちも3年生だ。受験とか進学とか……いろいろだからな。司もナイーブになることがあるんだろう」
「……受験?」
「ああ。なんだその顔は。来年になったら、紙谷くんだってそんな他人事みたいな顔はしていられないぞ?」
「あ、いやあ……はは」
 
 そうか。3年生はこれから受験シーズンか。
 
「あ、あの……ビブリオ倶楽部って、運動部みたいに大会が終わってから引退……ってわけじゃないですよね?」
「そうだな。一切顔を出さなくなることはないだろうが……まあ回数は減るだろうな」
「フェードアウトする、みたいな?」
「おそらくは」
 
 マジか。
 そこに、俺たちの会話を聞いていた乃部と今路も割り込んでくる。
 
「アンビリーバブルっ、部長たち、引退しちゃうんですかぁ!?」
「……仕方ない。中学生で留年、避けたい」
 
 今路がなんか恐ろしいこと言ってる。
 
「だーかーら。ここに一切来なくなるわけじゃないって。志望校に合格したらまた来るだろうし」
 
 がしりと肩を組んできたのは本多部長だ。
 
「ただ、これからは模試とかも本格的になるし……ずっとここで本を読んでばかりはいられない、かな」
「ああ。しばらく我慢の日々が続くな」
 
 部長と副部長がそろってため息をつく。
 うわあ、灰色の受験生ってこういうことか。
 
「ふたりの志望校って、別々なんですか?」
 
 俺の質問に、ふたりは1回顔を見合せる。それから笑って頷いた。
 
「あったりまえだろー! 博規と勉強で肩を並べるなんてムリムリムリ」
 
 ぶんぶんと手と顔を同時に振りまくった本多部長は、ぜえぜえと息を切らして「酔った」とうめいた。
 
 誰がそこまでして答えてくれと頼みましたか。
 つくづく体を張るなあ。
 
「じゃあ寒川副部長の志望校は、まさか県内トップクラスの賢康(けんこう)学院だったり?」
「あー……ノーコメント」
 
 寒川副部長はちょっと顔をひきつらせた。
 これは当たらずとも遠からずってとこだろうな。
 すごいな、国立大も狙える賢康学院を受験するなんて、エリート街道まっしぐらじゃん。
 
「まあ、俺の進路なんてどうでもいいさ。それよりお前たちの代になったら……」
 
 寒川副部長はわざと咳払いをして話を逸らした。
 
 む? 俺たちの代?
 乃部と今路を見る。ふたりも同じようにしてお互いを見た。
 
「そっか。次の部長と副部長を決めなきゃいけないのか」
 
 この人数で意味あるか? とは思うけど、部活動である以上は決める必要があるんだろうな。
 俺はまだ入部届けも出してないから除外するとして、乃部か今路、どちらかが部長でどちらかが副部長になるってことか。
 
「なんか……ヤだなあ」
 
 そこでぽつりと呟いたのは乃部だった。普段明るい乃部に似合わない暗い声にドキッとする。
 
「ん? 乃部は部長になりたくないのか?」
「それもあるけどー……やっぱり、ビブリオ倶楽部は司部長と寒川副部長がいてこそだから。いなくなることを考えたくない」
 
 そう口を尖らせながら、乃部はうつむいてしまう。
 今路も鼻のあたりまで隠しながら、小さく何度も頷いていた。
 
 ……正直、1週間もここにいない俺にはその感覚はわからない。
 でも、そうやって別れを惜しんでもらえる関係は、すごく、いいと思う。
 
「……あのさ、俺」
 
 ビブリオ倶楽部、入部してみようかな、なんて。
 
 そう言いかけたけど、やめた。
 乃部と今路が抱えてる寂しさは、俺が入部したからって埋まるものじゃないし。
 恩売ってる、なんて思われてもやだし。
 心の整理がついてからにしよう。
 誰の心かって……そりゃあ、みんなだ。
 俺を含む、ビブリオ倶楽部全員の。
 ……それがいつになるか、わからないけど。

 「どうした? 紙谷くん。なにか言いかけたようだが」
 
 水を向けてきた寒川副部長に、なんでもないですと手を左右に振って応える。

 「朝読書、いろいろおすすめしてくれて嬉しかったです。次の本は、今日選ばなかったものから読んでみます!」
 
 わざと明るい声色で言えば、場の雰囲気がなんとなく和らいだ気がする。
 
「そうか。好きな本を読むといいさ」
「写真集がだめなら、画集もある。ガンバ」
「いいねいいね、次に読む本に迷えるなんて、最っ高のラグジュアリーだよ〜!」
「スイーツ探偵バニラ、読んだら感想聞かせてくれよ?」
「はいっ」
 
 一冊の本を巡って、いろんなことを話した気がする。
 読書って、ひとりで読むだけじゃないんだな。
 
 ……そう改めて思いました。
 なんてな!