ビブリオ俱楽部におまかせ!

「か、書けた……」
 
 最後の句点を書いたとたん、ぶわりと胸が熱くなった。
 目の前には、文字でびっしりと埋まった原稿用紙。
 隣に置いたアドバイスを書き留めたメモは、書き込みやらで汚れてしまっている。
 それがかえって俺の努力の成果が目に見えるようで、誇らしい。
 
「か、書けたー! 書けたぞー! やったー!」
 
 妙なテンションのまま万歳三唱する。俺は選挙で当選した国会議員か。
 
 すごい……あんなに書けなかったのが嘘みたいだ。
 ほっぺたを抑えても、顔がにやつくのを止められない。
 
「おいおい、感想文が書けたくらいで浮かれるんじゃないよ、紙谷くんよお」
 
 自分で自分にツッコミながら、ゆるみきったほっぺたを外側に引っ張ったり内側に寄せたり。
 はたから見たらフェイスマッサージに勤しむ美容男子な俺だったが、ピコンと鳴ったスマホの通知は、更に俺の顔面を全力でゆるませにきた。
 
「ろきぴの配信きたあ!」
 
 片付けもそこそこに、スマホ片手にベッドにダイブイン。
 
『ろきろき~! みんな、今日もおつかれさま〜ろきぴだよっ』
「ろきぴぃぃ」
 
 にっこり微笑むろきぴの笑顔に癒される。
 寒川副部長にはちょっとかっこつけて、ビジュはそんなに重要じゃないと言ったけど、やっぱりこの可愛さだってろきぴのチャームポイントなのだ。
 うん、今路もジャケ買いはアリって言ってたしな。
 VTuberにとって見た目は命だ。
 可愛いだけじゃだめだけど、可愛くって困ることはなにもないのだ。
 ろきぴの見た目につられた俺は、むしろ健全な男子中学生なのだ。ビバ、思春期。
 
『この間の配信で、ろきぴの推し本について話したけど、今度は逆にみんなの推し本について聞きたいなーと思ったんだ』
「……俺の、推し本?」
 
 はたと思考が止まった。
 ちらりと机の上を見る。
 そこにあるのはろきぴの推し本だ。
 そして、その前に感想文を書こうとしていたのは課題図書。
 つまり、誰かから紹介されて手に取った本なのだ。
 
「……じゃあ、俺が好きな本――ろきぴにおすすめできる本って、なんだろう?」
 
 本棚に並ぶ本は、マンガが多い。
 でも、それだってクラスで流行ってるからとか、アニメ化で無料配信してるからとか、周りに影響されて読んだ本ばかりだ。
 読みたくて読んだ、というより消費した、に近いかもしれない。
 話題についていくためだから、その流行りが終わったら自然と会話からも、頭の中からも消えてる。
 ろきぴに薦めるんだったら、そういう本じゃないはずだ。
 
『わー! もうコメントがこんなにいっぱい! みんなすごいっ』
 
 ろきぴの歓声につられてコメント欄を見る。
 いろんなタイトルが、どんどん下から上へと押し上げられていく。
 その中には本屋で目にしたものもあるし、全然知らないものもあった。
 
「みんな、意外と読んでるんだなあ」
 
 今度配信があったら、ろきぴの推し本で読書感想文を書いた、とコメントしようと思っていたけど、どうやらそんな空気じゃなさそうだ。
 
「まだ提出もしてないしな。今度、チャンスがあったらにしよう」
 
 そのまま視聴モードに入った俺は、ベッドに寝転がりながら配信を見続ける。
 
 感想文を提出したら、もう一度図書室に行ってお礼を言おう。
 そんなことを考えながらろきぴの声を子守唄代わりにしていた俺は、いつのまにか寝落ちしていた。