男子、家を出ずれば7人の敵あり。
なんて昔の人は言ったらしい。
だが、令和の世はもっとキビシいのだ。
俺、紙谷文は――家の中で、敵とにらみあっている。
「読書感想文……滅びろ……!!」
机の上には、真っ白な原稿用紙。
これが俺のラスボスである。
いくらにらんでも身構えても、文字は勝手に浮き上がってこないし、ペンも勝手に動いてくれない。
隣にあるのは課題図書。
ナントカ協会推薦! とかそういう帯がついてるけど……残念なことに、さっぱり読む気がしないのだ。
いや、読むのは嫌いじゃない。
読もうと思えば読めるけど、感想文を書く前提だと読む気が失せる。
そういうことって、あると思う。
だってさあ……。
何を書いていいか、わからなくないか?
この課題図書の帯には、「感動の涙が止まらない」とか、「キミもきっと胸が熱くなる」とか、そういうキャッチコピーが書いてある。だけど、そんなに涙腺弱くねえし。
っていうか、泣けたとして、そんなの素直に書けるか! 恥ずいだろ!
……ま、そういう風に書けば、オトナの受けがいいのはわかるんだけどさ。
感受性が豊かで、他人の心に寄り添って、優しいキモチでみんな仲良し。
こういうの、机上の空論っていうんだっけ?
まさに俺の机上は、お空みたいにすっかすかだ。
「はああ〜」
ごつんと机に突っ伏して横を向く。そのまま手を伸ばして、ぱらぱらと真新しいページをめくる。
……だめだ、内容がなんにも入ってこない。
裏表紙をひっくり返す。
「絆」とか「友情の大切さ」とかが目に入る。
ああ、こういう時は「〇〇だと改めて思いました」の連発に限るかな。
何回書けばいいんだよ、「改めて思いました」って。
何回改めればいいわけ?
もはや悔い改める感じになってるだろ。懺悔か。ダンジョン前の教会に座ってるシスターもいないのに。
あと「思う」の乱発な。これ、書いてて自分でウザくなってくる。
もはや感想文じゃなくて「思う」の書き取りレベルだし。
一生分の「思」を書いてる気持ちになる。そのうち漢字自体がバラバラになって、原稿用紙のマス目から逃げていくんだ。
こういうの、なんていうんだっけ……?
スマホでぽちぽちと検索する。
「あー、ゲシュタルト崩壊か」
かっこいいな。なんか論文にありそう。
ゲシュタルト崩壊とナントカのナントカ的法則について、とか。
そっちの方が読む気が起きるかもしれない。タイトルって大事だ。
「崩壊か……俺のやる気も崩壊寸前だよ」
その時、ピコンと通知が鳴った。
「うおっ」
プッシュ通知には見慣れたアイコン。
それを見た途端、読書感想文は見事な放物線を描いて空の彼方に飛んで行った。
「ろきぴ〜! ゲリラ配信さんきゅー!」
スマホを握りしめたまま、くるりと回ってベッドにダイブイン。
アプリを開けば、いつものBGMがお出迎えだ。
『ろきろき〜! 元気な人もそうじゃない人も、こんにちはっぴ! ろきぴだよ!』
スマホに映ったのは推しのVTuber、ろきぴだ。
オカメインコを肩に乗っけた、可愛くてキュートでミラクルプリティな女の子。
本人もほっぺが赤くて、つんと立ち上がったアホ毛が目印だ。
『今日はね、みんなに紹介したいものがあるんだ』
「ん?」
『ろきろきっぴ〜! ろきぴ推し本、『はじけろ!デコボコパーツ』についてだよっ』
「ほ、本んん!?」
あまりのドンピシャっぷりに、ベッドにいながらにしてひっくり返った。
読書感想文で悩んでる時に、推しから推し本を紹介されるってどんな運命だよ!?
俺がひとりでテンパってる間にも、ろきぴの推し本語りは始まっていた。
『……なわけで、ワケありメンツが集まったこのチームは、組織のはみ出しものの寄せ集め。アウトローってやつだね』
「ほうほう」
『主人公たちもチームとしてまとまる気はないんだけど、次から次へと降ってくる課題はそうはさせてくれないの。それぞれバラバラに厄介事を片付けてるうちに、いつのまにか共通の敵と対峙することになってて……』
「ふんふん」
『ひと癖も二癖もあるメンバー揃いだけど、自分の得意分野にかけては譲れないんだよね。バラバラだったチームがターゲットを仕留める時だけ結束して、それぞれの武器で追い詰めていくの。情報、身体能力、頭脳、運……ちょっぴりドジってピンチに陥るんだけど、それがまた次の伏線になってたりして!』
「……へえええ!?」
『あっ、これ以上しゃべるとネタバレだ! ごめんごめん、面白かったからつい白熱しちゃって』
赤いほっぺたを更に赤くして照れ笑いをするろきぴが可愛くて、俺は画面にめり込まんばかりだった。
照れ顔は反則だぜ、ろきぴちゃんよ……!
勢い余って画面オフにしてしまったので、真っ黒になった画面に自分の顔がドアップで映っている。
何が悲しくて、推しにファイヤーしてる自分の顔を間近で見なければならんのだ。
慌てて画面を戻す。画面の中央にはろきぴが薦めていた本が映っていた。
「……『はじけろ!デコボコパーツ』か」
急いでスクショを取る。
読書感想文は課題図書でなければダメだ、という決まりはなかった。
つまり、ろきぴの推し本だっていいわけだ。
「ろきぴの推し本読んで……読書感想文書いて……それをネタにコメント送ったら、読んでもらえる確率上がるよな」
ろきぴのファンな俺だけど、今までコメントを送ったことはない。
何を書けばいいのかわからないし、読んでもらえるようなうまい文章を書ける自信がないからだ。
でも、これはチャンスだ。
自分がいいと思って紹介したものが、誰かの役に立ったら嬉しい。
俺だってそう思うんだから、紹介した本人のろきぴだってそうだろう。
そうしたら、俺のコメントがろきぴの目に留まるかもしれない。
「よっし、決めた! せっかく読むなら楽しいほうがいい! 推しが薦めてくれた本でついでに成績アップだ!」
がばっと起き上がって、ベッドの上でガッツポーズを決める。
ふっふっふ。
待ってろ、ろきぴ!
すっげー感想文書いて、ろきぴにファンとして認知してもらうからなっ!
なんて昔の人は言ったらしい。
だが、令和の世はもっとキビシいのだ。
俺、紙谷文は――家の中で、敵とにらみあっている。
「読書感想文……滅びろ……!!」
机の上には、真っ白な原稿用紙。
これが俺のラスボスである。
いくらにらんでも身構えても、文字は勝手に浮き上がってこないし、ペンも勝手に動いてくれない。
隣にあるのは課題図書。
ナントカ協会推薦! とかそういう帯がついてるけど……残念なことに、さっぱり読む気がしないのだ。
いや、読むのは嫌いじゃない。
読もうと思えば読めるけど、感想文を書く前提だと読む気が失せる。
そういうことって、あると思う。
だってさあ……。
何を書いていいか、わからなくないか?
この課題図書の帯には、「感動の涙が止まらない」とか、「キミもきっと胸が熱くなる」とか、そういうキャッチコピーが書いてある。だけど、そんなに涙腺弱くねえし。
っていうか、泣けたとして、そんなの素直に書けるか! 恥ずいだろ!
……ま、そういう風に書けば、オトナの受けがいいのはわかるんだけどさ。
感受性が豊かで、他人の心に寄り添って、優しいキモチでみんな仲良し。
こういうの、机上の空論っていうんだっけ?
まさに俺の机上は、お空みたいにすっかすかだ。
「はああ〜」
ごつんと机に突っ伏して横を向く。そのまま手を伸ばして、ぱらぱらと真新しいページをめくる。
……だめだ、内容がなんにも入ってこない。
裏表紙をひっくり返す。
「絆」とか「友情の大切さ」とかが目に入る。
ああ、こういう時は「〇〇だと改めて思いました」の連発に限るかな。
何回書けばいいんだよ、「改めて思いました」って。
何回改めればいいわけ?
もはや悔い改める感じになってるだろ。懺悔か。ダンジョン前の教会に座ってるシスターもいないのに。
あと「思う」の乱発な。これ、書いてて自分でウザくなってくる。
もはや感想文じゃなくて「思う」の書き取りレベルだし。
一生分の「思」を書いてる気持ちになる。そのうち漢字自体がバラバラになって、原稿用紙のマス目から逃げていくんだ。
こういうの、なんていうんだっけ……?
スマホでぽちぽちと検索する。
「あー、ゲシュタルト崩壊か」
かっこいいな。なんか論文にありそう。
ゲシュタルト崩壊とナントカのナントカ的法則について、とか。
そっちの方が読む気が起きるかもしれない。タイトルって大事だ。
「崩壊か……俺のやる気も崩壊寸前だよ」
その時、ピコンと通知が鳴った。
「うおっ」
プッシュ通知には見慣れたアイコン。
それを見た途端、読書感想文は見事な放物線を描いて空の彼方に飛んで行った。
「ろきぴ〜! ゲリラ配信さんきゅー!」
スマホを握りしめたまま、くるりと回ってベッドにダイブイン。
アプリを開けば、いつものBGMがお出迎えだ。
『ろきろき〜! 元気な人もそうじゃない人も、こんにちはっぴ! ろきぴだよ!』
スマホに映ったのは推しのVTuber、ろきぴだ。
オカメインコを肩に乗っけた、可愛くてキュートでミラクルプリティな女の子。
本人もほっぺが赤くて、つんと立ち上がったアホ毛が目印だ。
『今日はね、みんなに紹介したいものがあるんだ』
「ん?」
『ろきろきっぴ〜! ろきぴ推し本、『はじけろ!デコボコパーツ』についてだよっ』
「ほ、本んん!?」
あまりのドンピシャっぷりに、ベッドにいながらにしてひっくり返った。
読書感想文で悩んでる時に、推しから推し本を紹介されるってどんな運命だよ!?
俺がひとりでテンパってる間にも、ろきぴの推し本語りは始まっていた。
『……なわけで、ワケありメンツが集まったこのチームは、組織のはみ出しものの寄せ集め。アウトローってやつだね』
「ほうほう」
『主人公たちもチームとしてまとまる気はないんだけど、次から次へと降ってくる課題はそうはさせてくれないの。それぞれバラバラに厄介事を片付けてるうちに、いつのまにか共通の敵と対峙することになってて……』
「ふんふん」
『ひと癖も二癖もあるメンバー揃いだけど、自分の得意分野にかけては譲れないんだよね。バラバラだったチームがターゲットを仕留める時だけ結束して、それぞれの武器で追い詰めていくの。情報、身体能力、頭脳、運……ちょっぴりドジってピンチに陥るんだけど、それがまた次の伏線になってたりして!』
「……へえええ!?」
『あっ、これ以上しゃべるとネタバレだ! ごめんごめん、面白かったからつい白熱しちゃって』
赤いほっぺたを更に赤くして照れ笑いをするろきぴが可愛くて、俺は画面にめり込まんばかりだった。
照れ顔は反則だぜ、ろきぴちゃんよ……!
勢い余って画面オフにしてしまったので、真っ黒になった画面に自分の顔がドアップで映っている。
何が悲しくて、推しにファイヤーしてる自分の顔を間近で見なければならんのだ。
慌てて画面を戻す。画面の中央にはろきぴが薦めていた本が映っていた。
「……『はじけろ!デコボコパーツ』か」
急いでスクショを取る。
読書感想文は課題図書でなければダメだ、という決まりはなかった。
つまり、ろきぴの推し本だっていいわけだ。
「ろきぴの推し本読んで……読書感想文書いて……それをネタにコメント送ったら、読んでもらえる確率上がるよな」
ろきぴのファンな俺だけど、今までコメントを送ったことはない。
何を書けばいいのかわからないし、読んでもらえるようなうまい文章を書ける自信がないからだ。
でも、これはチャンスだ。
自分がいいと思って紹介したものが、誰かの役に立ったら嬉しい。
俺だってそう思うんだから、紹介した本人のろきぴだってそうだろう。
そうしたら、俺のコメントがろきぴの目に留まるかもしれない。
「よっし、決めた! せっかく読むなら楽しいほうがいい! 推しが薦めてくれた本でついでに成績アップだ!」
がばっと起き上がって、ベッドの上でガッツポーズを決める。
ふっふっふ。
待ってろ、ろきぴ!
すっげー感想文書いて、ろきぴにファンとして認知してもらうからなっ!



