男子トイレの太郎くん

「これは私が友達から聞いた話なんだけど、この学校にはトイレの花子さんがいないんだって」
 急に話をふったせいか、友達はどこか困惑したような顔をしている。
 でもこんな面白い話、一人で抱えておくことなんて出来ない。

「知ってる? トイレの花子さん。
 トイレの花子さんって結構有名じゃん? 私の前いた小学校でも試す人いたし。この小学校の花子さんは、男子トイレの太郎くんに殺されちゃったんだって。
 幽霊なのに殺されるのはおかしいよね。
 太郎くんは友達がほしくて、女子トイレに忍び込んで花子さんを呼び出したの。
 旧校舎三階のトイレ、奥から二番目のトイレを午後三時に三回ノックしたの。
 花子さんは太郎くんに取り憑いて殺そうとしたんだけど、太郎くんはそれを友愛の印と思ってやりかえしちゃったの。そしたら花子さんは死んじゃった。
 でも花子さんは死んじゃう間際呪いをかけたんだって。
 太郎くんが誰からも気づかれなくなる呪い。
 友達がほしかった太郎くんは誰にも見えず、聞こえず、触れない存在になっちゃったんだって。
 だからこの小学校には花子さんがいないんだって」

 私は長い話を語り終えて満足した。
 私も始めて知ったときはビックリした。転校したさ着にはトイレの花子さんのいない学校だったのだ。
 これは内緒なんだけどと聞かされた話はとてもゾクゾクして面白くて、早くだれかに伝えたかった。
「知らないみたいだから言っておくね」
 でも伝えた相手はちっとも楽しそうじゃない。怖い話が苦手とか、そういうんじゃなくて呆れ返っているような。
 急に彼女のことが怖く思えた。いや、怖いのは、学校そのものかも。
「男子トイレの太郎くんは、自分の話をされると嬉しくなって、その事仲良くなろうとどこかに連れてっちゃうんだって」
 友達だと思っていた子はにこりともせずに言った。

「もう遅いみたいだけど」