正しくない恋のはじまり

珍しい、と思った。
あの青砥さんが、こんな風に誰かのことを話しに来るなんて。

彼はもう、視線を外してまたペンを回していた。
くる、くる、と一定のリズム。


「……それ」

私はどう話せばいいか、言葉を探す。まだ、頭はあちこちへ思考が飛んでいる。

「会議のあと…三浦さんにも、同じこと言われて」

口に出してから、少しだけ後悔してしまった。
彼に言ってよかったのか、彼がどう思うのか、そこまで配慮できなかった。


青砥さんの手が、一瞬だけ止まる。
ほんのわずかな間。それから、またペンが動き出す。

「そうですか」

短い返事。

それ以上、深くは聞いてこない。
彼女が自分のことを、どんな風に言ってきたのかとか、気にならないのか。それとも───。


「私…どっちを信じればいいんだろう、って…」

気づけば、そんなことを言っていた。

この言葉に、嘘はない。
彼がそれに対して、“僕を信じて”とは絶対に言わないということも、なんとなく分かっていた。