正しくない恋のはじまり

もっとなにか言ってくるのかと思っていたのに、そこから彼はなにも言わなかった。

青砥さんは、指の間でペンを回している。くる、と軽い音。

視線は資料のまま。


「青砥さん?」

「…はい」

「なにか話でもあるんですか?」

私が尋ねると、彼は資料に置いていた視線を私に向けてきた。
目が合うと同時に、ペンを回す手が止まる。


“探していた”ということは、なにかを話に来たはずだ。
差分のことだけじゃないとしたら、他になにがあるのか。私には見当もつかなかった。


青砥さんは少しだけ押し黙ったあと、口を開いた。
次に落ちてきた言葉は、まっすぐだった。

「三浦さんには、深入りしない方がいい」

青砥さんの表情は、変わらない。真剣な顔。
だけど、今日はその中になにか違うものが感じ取れた。
でもそれがなんなのかは、ちゃんとは読み取れない。

私の戸惑いを察したのか、彼はすぐに続けた。

「仕事の話です」

淡々としているのに、でも、突き放しているわけじゃない。

「彼女は判断が早い人ですから」

まだ混乱している私の返すタイミングを消すように、青砥さんはすぐにまた言う。

「巻き込まれると、戻るのが面倒になります」