正しくない恋のはじまり


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この日は、会議以外に青砥さんを見かけることがなかった。

珍しくもない。
彼は外部コンサルなのだから、ずっとうちの会社にいるわけではない。
会議や打ち合わせだけ見て、帰る時も少なくはない。
逆にずっとデスクにいることもある。

夕方になっても彼の姿はなかったので、もういないと思っていた。


調べ物をしながら議事録をまとめたかったので、私は資料室にこもって仕事をしていた。

紙の匂いがするこの空間で仕事をする時は、案外はかどったりもする。
電話の音も、誰かの話し声も、何も気にすることがないからだ。


紙ベースで残っている記録を見ようと、席を立とうとしたとき、コンコンとノックをされた。

「はい」
と、返事をすると、すぐにドアが開いた。

「青砥です。お疲れ様です」

「あっ、お疲れ様です…いたんですね」

すっかり彼のことは今日はもう見ないと思っていたので、そんなことを言ってしまった。

青砥さんは少し不思議そうな顔をしたものの、そのまま資料室の中に入ってきた。
静かな足取り。いつも通りの、余計な音を立てない歩き方。

これのせいで、彼の気配は他の人よりも感じ取りにくい。