正しくない恋のはじまり


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会議が終わって、残って資料をまとめていると、

「少し、いいかしら」

と、背後から声をかけられた。

女性の声。
すぐに誰なのか分かった。

振り返ると、三浦さんが立っていた。

距離が近い。思っていたよりもずっと。
身長はそんなに変わらないように思えたけれど、高いヒールから見下ろされている感覚になる。


「はい……」

見えない圧力を感じて、そう答えるしかない。

手を止めて向き直ると、三浦さんは素早く私の顔から靴までちらりとチェックしたのが分かった。
会議とは違う緊張が走る。

「……藤井あかりさん、だよね?」

「は、はい」

慌ててうなずくと、彼女は次に軽く視線を落として、私の今まとめていた手元の資料に目をやる。

「さっきの指摘、悪くなかった」

張りつけたような笑顔で、私を見る。

「ちゃんと見てるのね。聞いてた通りだわ」

褒められているはずなのに、どこか落ち着かない。
そして、“聞いてた通り”というその言葉がふと気になってしまう。
どこで、誰に、なにを聞いたというのか。