正しくない恋のはじまり

三浦さんは微笑んだまま、続ける。

「その視点、嫌いじゃないわ」

そう言って、伏し目がちに髪の毛を耳にかけた。

「でも今回は、そこじゃないの」

何気ない彼女のたった一言で、流れをさっと変える。

「全体のスケジュールが優先されている以上、この程度の差分は許容範囲よ」

さらりとした口調。
まるで、最初から結論が決まっていたみたいに。

ここにいる誰ひとり、反論しない。
肯定するように、部長がうなずいた。

「そうですね。このまま進めましょう」


───決まってしまった。

私はそれ以上なにも言えなくなって、言葉を飲み込む。

間違っていないはずなのに。どこにもぶつけられない。
むしろ、ここで発言したわたしの方が間違えていたような視線がどこかから突き刺さる。


言わなきゃよかった、と後悔した。

その時。

「…その差分、具体的にどの程度ですか?」

聞き慣れた低い声が、会議室に静かに落ちた。

私を含め、この場にいた全員が顔を上げる。
青砥さんだった。