正しくない恋のはじまり


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会議室に入ると、すでに何人かが席についていた。

ノートパソコンを立ち上げながら、自分の席に着く。
いつも通りの空気。
いつも通りの資料。
…の、はずだった。


ドアが開く。
一瞬だけ、視線がそちらに流れた。

入ってきたのは───さっきエレベーターで見た、あの女性だった。


胸の奥が、わずかにざわつく。
部長がすぐに立ち上がった。

「三浦さん、お待ちしてました」

その呼び方に、空気が変わる。


─────この間、聞いた名前。“三浦さん”。
やっぱり、この人だ。


「遅れてごめんなさい。少し立て込んでいて」

柔らかい声。けれど、謝罪の温度は薄い。

三浦さんは自然な動作で席に着き、資料に軽く目を通す。
視線が流れるだけで、全体を把握しているように見える。


「では、本日の進捗をお願いします」

部長のその声で、会議が始まった。

担当者が現状の説明を進める。
スライドが切り替わり、数字と工程表が並ぶ。

私は手元の資料と照らし合わせながら、内容を追っていった。何度も何度も、自分でも不思議なくらい資料とスライドを行き来する。

……なんだろう、これは。
不吉な音がどこかで聞こえるような、違和感。

小さなズレ。
でも、見過ごしていい類のものじゃない。