正しくない恋のはじまり

呼吸が、近い。
その代わり、言葉は全部、正しい。正しすぎるくらいに。
自分だけが気にしているのかと思うと、それも悔しかった。

「……分かりました」
と言いながらも、 指が思うように動かない。

───おかしい。
こんなことで、手が止まるなんて。


「それとEXITの想定ですが、今のままだと弱いです」

「弱い、ですか?」

「NOIの伸びを保守的に置いているのに、 キャップレートが楽観的すぎる」

まだまだ止まらない指摘を聞きながら、仕事に集中しなければいけない場面で違うことを考えてしまう自分を叱咤した。

真正面から目を合わせたら、戻れない気がした。


そんな私を気にすることなく、青砥さんはひと息つく。
そして、急に乗り出していた身体を椅子に戻して、背もたれに身を預けた。

「売却時に剥がれますよ、この前提」

不意に言われた言葉に、ぞくっとした。

怖い言葉、のはずなのに。
怖いだけじゃない、なにかが混ざっていた。

「……キャップレート、引き上げて再計算します」

なんとか返したけれど、声は小さかった。

「ですね。お願いします」

青砥さんがようやく隣の席に戻る気配がして、ようやく顔を彼に向けることができた。