正しくない恋のはじまり

青砥さんは身を乗り出して画面を指差した。
そのまま、キーボードに手を置いたまま動けなくなってしまった私を見る。

「この前提だと、銀行は“守りに入る”。藤井さんなら、分かりますよね」

声が低い。
静かで、逃げ場がない。

この雰囲気こそが、彼がいつも持ち合わせている仕事への迷いのなさだ。

「なのでここは、賃料を落とすか、フリーレントを伸ばすか。どちらかで吸収してください」


完全に仕事の話、なのに。

私だけが感じているのかもしれない。二人の距離が、あまりにも近い。

意識しすぎて、手が震えそうになった。


「……賃料、下げる方で組み直します」

「はい。その方が現実的です」

彼はうなずき、そのまま画面を覗き込む。
肩が、触れそうな距離になった。

「あとここ」

カーソルを動かす。

「CAPEXの内訳、もう少し分解できますか?」

「できます。内装と設備を分けた方がいいですか?」

「はい。特に設備更新費は、初期と運用で切り分けてください」