正しくない恋のはじまり

彼の話し方が仕事へ戻っていて、私も気持ちの切り替えを急いでする。

そういえば、今日中に、と朝に話をしたではないか。もしかしたら彼は私を待っていたのかもしれない。

そう思うと、自然と姿勢を正している自分がいた。

静かすぎるオフィスの隣同士は、昼間よりも距離が近く感じた。


「昨日のストレスケースですが」

淡々と切り出される。仕事の声。いつもと同じだ。

「はい。想定稼働率を85%まで落としたパターンを組んでみました」

私はそう言って、自分のパソコンの画面を切り替えて開く。

「こちらがその場合の収支です。賃料単価は据え置きで、フリーレントを最大三ヶ月まで見ています」

青砥さんがキャスターごと移動して私のすぐそばに来た。視線は画面を見ている。

「リーシングの初速は?」

「オープン後三ヶ月で40%、半年で65%想定です」

「…その前提だと、DSCRはどこで割れますか」

「えっと……」

キーボードを打つ指が、わずかに止まってしまった。
落ち着け、想定内の質問だ。

「金融コベナンツは1.2なので、第2四半期で1.15まで落ちます」

「借入条件の見直しは?」

「まだです。ただ、LTVは65%以内に収めているので───」

「甘いですね」

気持ちいいほどに即答され、思わず顔を上げる。

「……えっ」

「稼働が遅れた場合、リファイナンスの交渉余地がなくなります」