正しくない恋のはじまり

「へぇー」

「あかりがそんな風に言うなんて」

「珍しいじゃん。評価高いってことだよね?」

二人とも、意外な顔をして面白そうに笑った。

まずい、とこの時点でようやく気がついた。しゃべりすぎてしまったかもしれない。

「いや、別にそういう意味じゃなくて」

慌てて否定したものの、たぶん、もう遅い。

「……ふーん」

含みのある声で返され、私は口をつぐんだ。



いつもそうだ。

会社での私は、同僚と一緒に笑えるけど、同じ温度では笑えてない気がする。
どこか一歩引いたまま会話している自分に、遅れて気づく瞬間がある。

───今のように。


その空気から逃げるみたいに、カップに口をつける。
コーヒーのほろ苦さが、やけに強く感じた。

“普通”なんかじゃ、まったくない。頭の中で、訂正する。

全然、違う。どこも合っていない。思ってもいない。
なのに。
それを、うまく言葉にできなかった。


「まあでも、見るからに関わると疲れそうではあるよね」

一人が皮肉まじりに何気なく言ったその言葉が、ほんの少しだけ引っかかる。


疲れる。

他人から見たら、そうかもしれない。私もそうだった。そう思っていた。
最初は彼の姿を見るだけで、嫌だと思っていたし、話すたびに疲れていた。そうだった。

でも、今はたぶん、そうじゃない。