正しくない恋のはじまり


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給湯室に入ると、コーヒーの香りが広がっていた。

中には私と同様に休憩がてらお茶しに来た、同僚が二人。どちらも顔見知りの女性社員だ。

私は砂糖とミルクを入れて、カップを手に取る。
ひとくち飲むと、疲れていた脳が生き返る気分だった。


「ねえ、あの人さ」

と、二人が会話を始めた。

私には見向きもしていないので、こちらも気にせずコーヒーを口に運ぶ。

「最近来てる外部の人、分かる?」

「ああ、青砥さん?」

唐突に聞こえた彼の名前に、思わずカップを握っていた手に力が入る。
過剰に反応しないために、視線を落とした。

…なんの話?と、聞きたくなくても聞こえてしまう狭い給湯室で、変な気持ちになった。


二人は私には構わず、話を続けている。

「そうそう、その人。事務所によくいるけど、なんか怖くない?」

くすっと笑いが混ざるのが分かった。

「分かる。無駄なこと嫌いそう。世間話とかしてるの見たことないし。みんな萎縮してるじゃん。やだねー、外部って」

「でもさ、仕事はめっちゃできるよね?」

「それも分かる」

軽い調子の会話。ただの雑談。
いちいち反応しちゃだめ。

なるべくこの場から早く離れたくて、熱々のコーヒーをなんとか飲み干す方法を考える。
───湯気が立っていて、一気飲みは難しそうだ。