正しくない恋のはじまり


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曇り空の午後。


資料を持って廊下を歩いていると、少し離れたところで部長の姿が見えた。
どうやら電話中らしい。スマホを耳にあてていた。

なんとなく、見つかりたくなくて足を止めて壁際に寄る。
もうあまり部長と二人にはなりたくなかった。


部長の声は抑えているのに、断片だけが聞こえてきた。

「……だから、それは……」

苛立ったような声だ。

珍しいな、と思って部長の横顔を遠くから眺める。
なにやらうろうろして、行ったり来たりしているのが見えた。

「……の点を…、確認しておけ。……三浦に……」

急にその名前だけが、はっきりと耳に飛び込んできた。
───“三浦”という名前。

それを聞いた瞬間、心臓がどくっと跳ねた。

無意識に、顔を上げる。


少し離れた場所にいたからか私に気づくことはなく、部長はすぐに背を向けて、その場を離れていった。


べつに、私にまつわる話とかではない。
ただの電話だし、ただの“誰か”の名前。
仕事の内容だと思う。

…なのに、さっきまでの違和感と、どこかで繋がる。

“裏で回してる人”。
その言葉が、頭の中で反響する。