正しくない恋のはじまり


午前中は、そのまま前日の会議の資料の修正に追われた。数字を整えて、前提を揃えて、説明の流れを組み直す。
いつも通りの作業。

集中していれば、余計なことは考えずに済む。
…はずなのに。


ふとした瞬間に、昨日の距離が頭をかすめる。
どうしてもいなくなってくれない。


「……違う」

小さくつぶやいて、画面に視線を戻した。

考えすぎだ。ただの勘違い。たぶん最近、疲れているだけだ。
そう、思い込もうとする。


「おはようございます」

ふっと聞こえてきた低い声に、反応が遅れた。
青砥さんだった。

つい今しがたまで思い出していた本人が現れて、胸が跳ねてしまった。

「あ、おはようございます」

「いま、大丈夫ですか」

「はい」

自分の声が硬いのを感じる。
意識をちゃんと仕事に戻すために、切り替える。呼吸を整えた。
自然と背筋が伸びる。

周りではキーボードの音が鳴り続けているのに、そこだけ少し静かに感じた。