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その日、定時はとうに過ぎていた。
まとまらない仕事に頭を悩ませ、今日はもうやめよう、と自分の中で区切りをつけてデスク周りの電気を消した。
フロアには、もう数人しか残っていない。
資料をきれいにまとめて、席を立つ。
───余計なことは、考えないようにしよう。
そう思いながら、バッグを肩にかけ直してエントランスへ向かう。
人の流れに紛れて外へ出ると、夜の空気が少しだけ軽かった。
ビルの明かりから外れたところで、ふと足を止める。
ほんの少しだけ、息を整えたかっただけ。
…疲れた。いつからか、こんなに疲れるようになったのは。
今日は簡単なものを作って食べて、早く寝よう。
そんなことを考えている歩き出そうとした時、聞き慣れた低い声が聞こえてきた。
「……はい」
その低い声がする方へ視線を向ける。
エントランスから少しいったところにある、外の喫煙所の端。
青砥さんが柱にもたれて、電話をしていた。
「もう少し時間をください」
足が、完全に止まる。
「はい。動きは見えてきてます」
胸の奥が、じわりとざわつく。
───誰と、何の話をしてるの。
「いえ、表には出ていません」
息を潜める。
聞くつもりなんてなかったのに、聞いてはいけないのも分かっていたのに、どうにも体が動かない。
「……はい。分かりました。失礼します」
彼の通話が切れる。
その直後、青砥さんがこちらを見た。
離れた距離なのに、視線がぶつかる。



