正しくない恋のはじまり

「……何を聞いてるんですか」

すぐ後ろから声が落ちてきて、びくっとして振り返る。

青砥さんだった。
いつからいたんだろう。

「……えっ?」

「ブレスレットの話です」

その表情からは、やはり感情は読み取れない。
その“なにもない感じ”が、余計に怖かった。

「……なんでもないです。可愛いなと思って、声をかけただけです」

反射的に答えたけれど、声は揺れてしまった。

「そういう聞き方には見えませんでしたが」

会議の時のように、すぐに返される。
一歩、足を踏み出されて距離が近づく。また、削られる。

「…たまたま、気になっただけです」

言いながら、自分でも苦しいと思う。

青砥さんは言い淀む私を静かに見下ろしていた。目には前髪がかかっているのに、視線は強い。
何かを測るみたいに、目を細めている。

「そうですか」

短く、それだけ。それ以上は聞いてこない。踏み込まない。
こういうのも、会議と同様だった。

それなのに、不思議なことにさっきよりもずっと、“見られている”気がした。


逃げるように、私はその場から離れた。