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役員フロアへ向かうエレベーターは、いつもより少しだけ混んでいた。
同じ資料を抱えた人間たちが、無言で同じ方向を見ている。
誰もが時間を気にしていて、余計な会話はない。その空気に紛れるように、私は壁際に立った。
ドアが開く。
一斉に人が降りて、同じ流れに乗る。
廊下は、不気味なほど靴音が揃っている。革靴やヒールの音が、一方向へ向かっていた。
低い声で交わされる会話も、どこか遠い。
会議室の前に、人だかりができていた。
開始前の、いつもの光景。見飽きるほどの顔ぶれ。
その中に、
ひとりだけ、動いていない人がいる気がした。
───いた。
気づいたのは、視線がそちらに引かれてからだった。
壁にもたれず、姿勢よく立っている。
誰とも話していないのに、浮いていない。むしろ、周りの空気が少しだけ静かになる。
その人が、ふと視線を上げた。
…ちょうど、私の方を見ていた。
彼がわずかに首を傾ける。
整いすぎているのに、なぜか印象が残らない。
記憶に引っかからないはずなのに、目が離せない。
こちらの警戒を察しているはずなのに、踏み越えようとしてくる気配。
一瞬で、呼吸が止まる。
昨日と同じだ。視線が、まっすぐすぎる。
逃げる隙がない。



