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フロアから廊下に抜けても、さっきまでいた部屋の温度がまだ肌に残っている気がして、うまく息が吸えなかった。
無理だ。
心の中で、はっきりとそう思った。
『机の上に出てるものなんて、意外と無防備なもんだ』
あんなことを言われて、平気な顔でうなずけるほど、器用じゃない。
彼のパソコンやスマホを見るなんて。
無理に決まってる。
隣を歩く足音が、一定のリズムで続いていた。
見なくても分かる。青砥さんが、まだいる。
自席に戻るでもなく、私を部長室から連れ出したまま廊下に出た時点で、助けられたのだと分かっていた。
でも、それを確かめる勇気はなかった。
「さっきの」
ふと、低い声が振ってきて、「はい」と反射的に返事をした。
隣を見ると、無造作に伸びた前髪からのぞく目が、私を見ていた。
「……ああいう時は、あまり立ち止まらない方がいい」
足が、わずかに止まりかける。
言葉少ない彼の言いたいことを、考えた。
その言葉で、さっきの部屋の空気がまた蘇る。
狭い室内。詰め寄ってくる距離。背後から落ちてきた「また、話そう」という声。
胸の奥が、じわっと気持ち悪くなる。
「……はい」
うまく声が出たかどうか、自信がない。
それ以上、青砥さんは何も言わなかった。



