正しくない恋のはじまり

数日後。

午前の業務がやっとひと段落した頃、お昼ご飯を買ってこようとパソコンを一度閉じた。
バッグからお財布を出そうと手を伸ばしたところで、同僚から声をかけられた。


「藤井さん。部長が呼んでるよ」

その一言で、指先が止まる。

─────覚悟はしていたけれど、来てしまった。


最初の呼び出しから、数日。

結局、何もつかめていない。
見ようとしても、分からない。

分からないのに、見られている気がして動くことができなかったのだ。


「…今、ですか?」
と、気持ちだけが後ろ向きになる。

「早急に、って言ってるけど」

その言葉で悟る。行くしかない。

「分かりました」

手に取りかけたバッグを下ろして、ゆっくり立ち上がる。キャスターの音がやけに響いた。

気が重くて、足取りも自然に遅くなる。
部長室の前で、足が止まった。