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無言のまま、私は隣を歩く青砥さんを見上げた。
彼はなにも言わず、ただ前を向いている。
やっとの思いで目的の給湯室へ足を踏み入れたのに、まだ、なにも安心できない。
さっきの場所から離れているのに、呼吸だけが戻らない。
足が止まる。
シンクにつかまって、深呼吸をした。
頭では分かっているのに。
ただの“そういうこと”だって。
なのに、身体が拒否している。
「藤井さん、大丈夫ですか?」
私の資料を持ったまま、青砥さんが確認するように顔を覗き込んできた。
彼から顔を背けたまま、私は小さく首を振った。
「……大丈夫です」
自分でも分かるくらい、頼りない声。
いま、彼がどんな顔をしているかなんて、確認する余裕はまったくない。
どうせ、いつもみたいにつかめない温度の表情で私を見下ろしているのだろう。
そう思っていたのに。
「大丈夫じゃない顔してますよ」
思いのほか、やわらかい声だった。
さっきの会議とはまるで違う。追い詰めるような響きじゃない。
気遣ってくれているのは、少なくとも声だけで感じ取れた。



