少し離れた私の場所からでも分かる。
向こう側にいるふたりの顔が近い。
───違う。
互いに、触れている。
…唇が、重なっている。
たぶん、もう周りなど見えてないほどの。
次の瞬間、腕の中にいる相手の手元が、わずかに見えた。
部長の背中に回された手。
細い指。淡いベージュのネイル。
その手首に、見覚えのある細いゴールドのブレスレット。
するとさっきの甘い香りが、はっきりと重なる。
どこかで、すぐ近くでこの香りがしたような。
どこかの会議室で、すぐ隣に座った誰かから。
あのときも、同じ匂いがしていた気がする。
─────でも、思い出せない。
思い出したくないのかもしれない。
思考が追いつくより先に嫌悪感が襲ってくる。
理解は一瞬なのに、身体がついてこない。
───嘘でしょ。こんな、ところで。
言葉にならない。
靴音も、呼吸も、全部が消える。
息を吸って。酸素を、回して。ちゃんと、呼吸を。
そこにだけ意識を合わせていたら、手の中に抱えていたはずの資料がするりと力の抜けた腕から落ちそうになった。
向こう側にいるふたりの顔が近い。
───違う。
互いに、触れている。
…唇が、重なっている。
たぶん、もう周りなど見えてないほどの。
次の瞬間、腕の中にいる相手の手元が、わずかに見えた。
部長の背中に回された手。
細い指。淡いベージュのネイル。
その手首に、見覚えのある細いゴールドのブレスレット。
するとさっきの甘い香りが、はっきりと重なる。
どこかで、すぐ近くでこの香りがしたような。
どこかの会議室で、すぐ隣に座った誰かから。
あのときも、同じ匂いがしていた気がする。
─────でも、思い出せない。
思い出したくないのかもしれない。
思考が追いつくより先に嫌悪感が襲ってくる。
理解は一瞬なのに、身体がついてこない。
───嘘でしょ。こんな、ところで。
言葉にならない。
靴音も、呼吸も、全部が消える。
息を吸って。酸素を、回して。ちゃんと、呼吸を。
そこにだけ意識を合わせていたら、手の中に抱えていたはずの資料がするりと力の抜けた腕から落ちそうになった。



