正しくない恋のはじまり

「その前に」
と、遮ったのは青砥さんだった。

一瞬で、空気が変わる。
見えないはずの線が、ぴんと張られるみたいに。

「このリーシング費用、契約ベースで発生してますよね?」

指摘は、あまりにも正確だった。
逃げ道を残しているようで、残していない聞き方。

「……はい、一部は契約確定ベースです」

営業が答えたものの、わずかに声が硬い。
開いたままのボールペンを、指先で持て余しているのが見えた。

青砥さんがなにかを言った時に、必ずそうなる“空気”。
彼がどこまで自分のそれを知っているかは分からないが、そのまま視線を営業担当に向けていた。

「では、それを来期に寄せた場合、」

ほんのひと呼吸、間を置く。
その“間”が、やけに長く感じた。

「今期の稼働率は“実態より高く見える”ということになりますよね?」

それは、知らなかったことじゃない。気づけなかったことでもない。
ただ、“見ないことにした”だけだ。
ペンを持つ手に力が入る。