正しくない恋のはじまり

昨日のあの言葉が、頭の奥で蘇る。

『そうやって、全部“仕事”で片付けるんですね』

指先が、わずかに震えた。

気づけば、小さくため息を漏らしていた。無意識に“逃げたくなる”感覚。
得体の知れない、なにか。


マウスを握り直して、私はもう一度資料に視線を落とした。

考えない。さっきも思ったはずだ。
今やるべきことは、それじゃない。


役員報告会の資料は、すでに最新版になっている。

数値も、文言も、配置も。
何度も確認して、修正して、ようやくここまで整えた。

用地の取得単価。
建設費の見込み。
開業後の賃料想定と投資回収の年数。

各部署の意見をすり合わせて、表に出す情報と、出さない情報を切り分けた。
余計な波が立たないように。誰も困らないように。

それが、私に求められていることだ。