正しくない恋のはじまり

少しずつ、呼吸が浅くなるのが分かる。
さっきから頭痛がひどすぎて、冷や汗も止まらなくなっていた。

「……私に、ですか」

分かっているのに、確認してしまう。

部長は、わずかにうなずいた。口元が、わずかに動いた気がした。
でも、それが笑ったのかどうかは分からない。

「お前は警戒されにくい。話しやすい相手からは、情報が落ちるだろう」

その言葉が、ズキンと刺さる。

優しく言われているのに、やろうとしていることは、まるで違う。

「藤井、難しく考えなくていい」

部長は、ここでようやく視線を外した。

「…そう。仕事の延長みたいなものだ。普段通りでいい」

───違う。
そう思ったのに、ここでは言えなかった。

無理だ。
私には、到底無理に決まっている。

「報告は必要に応じてでいい」

最後に、それだけ付け足された。
命令の形をしていないのに、 逃げられない。
たぶん、その“報告”が一番の指示だ。