正しくない恋のはじまり

そこで初めて、部長がこちらをまっすぐ見た。
その視線が、思っていたよりも重い。

「困るんだよ」

静かな声だった。
怒っているわけでもないのに、 その一言だけで、空気が一段沈む。

言葉を選ぶ余裕がない。なんとか探し、当たり障りのない返事を見つける。

「……問題がある、ということですか」

私が絞り出した声に、部長はすぐには答えなかった。
視線だけがじっとりと残る。
それだけで、十分だった。

「藤井」

名前を呼ばれる。それだけで、背筋が伸びる。

「お前、あいつと話していただろう」

一瞬、呼吸が止まる。
これまでのやり取りが、頭をよぎる。

「…少しだけ」

「いい」と、遮るように言われる。

「それでいい」

その肯定が、逆に逃げ場をなくしていく。

「その距離を保て」