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彼が離れていったあとも、画面の数字は頭に入ってこなかった。
カーソルが点滅している。
一定のリズムで、何かを待つみたいに。
───『無理に合わせる必要はないですよ』
さっきの声が、まだ残っている。
整えることは正しいはずなのに。
揃えることは、仕事のはずなのに。
指先が、動かない。
……だめだ。
思考を切り替えようとして、私は一度深く息を吐いた。
そのまま立ち上がる。
気づいたら、足はもう動いていた。
廊下を抜けた先、さっきとは別の角。
人の気配が少ない場所。
そこに───見つけた。
青砥さんが、壁にもたれたままスマートフォンを見ている。
画面の光が、長めの前髪の隙間から目元を照らしていた。
私に気づいて、ゆっくりと顔を上げる。
「どうかしました?」
いつも通りの声。何もなかったみたいな顔。
それが、少しだけ腹立たしい。
「…少しだけ」
そう言いながらも、自分でもなにをしに来たのか分かっていなかった。
ただ、戻れなかった。
距離は、数歩分。
近づく理由も、離れる理由もない距離。
沈黙が、落ちる。
彼は何も言わない。ただじっとこちらを見ていた。
逃げ道を残したまま、でも絶対に逸らさない視線。



