正しくない恋のはじまり


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定時を少し過ぎた頃。

今度こそ、いける。
いや、いく。もう今しかない。

なんのために、俺は今日整えてきたんだ。
シャツもネクタイもヘアセットも、まだ完璧なままだ。

何度もタイミングを逃してきたけど、もういいだろ。
帰り際なら、自然だ。


パソコンを閉じて、立ち上がる。

あかりちゃんも、ちょうどバッグに手をかけたところだった。


「あかりちゃん!今日このあとどこか──」


言えた。
やっと言えたぞ、俺。

あかりちゃんは声をかけられるなんて予想していなかったのか、ちょっと気の抜けた顔で振り返った。


「藤井さん」

……まただ。

声が、重なっていた。


振り向くと、青砥が立っていた。

いや、なんでだよ。
いつもどんなタイミングでカットインしてくるんだよ、こいつは。スーパーリベロかよ。


「本日の議事録ですが、修正点があります。もう少しだけ、時間いいですか?」

今っ!?

今なの!?

「あ、はい。大丈夫です」

大丈夫なんだ!?

あかりちゃんは、何の迷いもなくパソコンを開き直した。

俺の“このあと”が、音もないまま閉じた。