正しくない恋のはじまり

「えっと、今それを橋本さんと──」

「失礼します」

あかりちゃんの言葉を、青砥が静かに遮る。

そのまま、俺とあかりちゃんの間に、自然な動きで入り込んだ。


……いや、“自然”ではないだろ。


「藤井さん、この数値ですが」

資料を指し示しながら、淡々と続ける。

「この前提で組んでいる場合、後工程で確実に手戻りが発生します。こちらで再計算したものを共有しますので、一度見てください」


あかりちゃんは、少しだけ驚いた顔をしたあと、すぐにうなずいた。

「はい、お願いします」


……“はい、お願いします”?


パソコンの画面を、あかりちゃんが青砥の方へ向ける。

二人の距離が、必然的に近くなる。


俺、さっきまでそこにいたよな?


「あと、この部分」

青砥が画面を指さす。

あかりちゃんが少し身を乗り出す。

「ここ、もう少し詰めた方がいいと思います」

「……あ、ほんとだ」


会話が、成立している。あまりにも、普通に。


───俺のターン、終わった?


「橋本さん」

不意に名前を呼ばれて、反射的に顔を上げる。

青砥がこちらを見ていた。


「先ほどの会議で出ていた資料、こちらでも確認しておきます。共有いただけますか」


……ああ、仕事の話だ。

ちゃんと、仕事の話だ。


「……あ、はい。送ります」

「お願いします」


それだけ言うと、青砥はもうこちらには興味がないように視線を外した。


完全に、会話から外された。


───いや、ちょっと待て。


俺、いま

めちゃくちゃ自然に

弾 か れ た よ な ?