正しくない恋のはじまり

「やっぱり。ここ、見てますよね」

身をかがめたまま、彼が私を見る気配を感じた。
でも、ここはパソコン画面に向き合ったまま、じっとこらえた。
青砥さんは続けた。

「この数値ですが」

指先が、画面の一箇所を示す。

「この調整、意図的ですよね?」

一瞬、言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
目を見開きそうになり、なんとか息を飲むだけで反応せずに済んだ。

「…試算の範囲内です」

咄嗟に出た言葉は、それだった。
自分でも、どこか曖昧だと思う。

彼はそれに対しては何も言わず、数秒だけ画面を見ていた。
その沈黙が、やたら長い。


「元データはどちらですか?」

尋ねられて、私はカーソルを一瞬迷わせたあと、観念して別のシートを開いた。

「…これです」

取得単価、建設費、想定賃料、稼働率。
ほんの少しだけ数字を動かせば、見え方は整う。整えたつもりだった。

「───なるほど」

彼は小さくそう言ったあと、ひと呼吸置いた。

「藤井さん。気づいていましたよね」

視線が、落ちてくる。
心臓が、強く鳴った。指が止まる。

「……なにがですか?」