正しくない恋のはじまり

かくいう俺も、いつだかファイル名がおかしい、と指摘された。

いま思い出しても震える、氷のような温度の目。


『このファイル名、修正してください』

『え?』

『“最終_最終_マジ最終_これで本当に最終.xlsx”になっています』

『……はい?』

『正式な資料として扱えませんので』

……いや、そこ?
中身じゃなくて、そこ?
中身はちゃんとしてるのに、見もしないで?


あの時は、たしかにやらかしていた。

でも!あのファイル名で!
色んな人たちが笑ってくれたんだ。あかりちゃんも、めちゃくちゃ笑いをこらえてた。

どうしてだめなんだ。
ユーモアの欠片もない、面白みのない男め。

ぜっったいに、モテないな。可哀想に。


別に、普段から甘く仕事をしているわけではない。
時々たるんでしまう日々の業務を、青砥がまたピシッとアイロンをかけ直していくような。そんな感覚だった。


……それにしても、あかりちゃん、戻ってこないな。

午後からの会議は十三時半から。
それまでにはなんとか彼女に声をかけなければ。