正しくない恋のはじまり

あの会議室の空気も、あの選択も、全部、もう過ぎたことだ。
今はもう、仕事じゃない。


青砥さんが一瞬だけ視線を落とす。

そのまま、自然に手が触れた。
ためらいなく、絡んだ。

さっきよりも、ずっと。


「……行きましょうか」

静かな声。
でも、ほんの少しだけ温度がある。

私は前を向いたまま、うなずいた。

歩幅が揃う。

街の明かりが、少しずつ後ろに流れていく。


───明日も、私は同じ場所で働く。

また、同じオフィスで、
同じ人たちと、
同じように仕事をする。

そしてきっと、彼も来るだろう。


もう、これまでみたいにいつもいるわけではない。
ただ、必要なときにだけ。


そのたびに、空気が少しだけ張り詰めて、
誰もが気づかないふりをする。

そんな中で、何も変わらない顔をして、隣に立つのだろう。
仕事として。



繋いだ手が、少しだけ強くなる。

離さない、と言われた気がした。

私は、そのまま歩く。

行き先は決めていない。

でも、もう迷わない。

この先に進むことだけは、ちゃんと決めているから。



本編はここで

𓂃⟡.·おしまい