正しくない恋のはじまり

青砥さんはしばらく何も言わない。
ただ、ライターを閉じて、そのまま煙草もポケットに戻した。

あまりにも迷いがなさすぎて、逆に戸惑う。

「す、すみません」

反射みたいに言うと、青砥さんは小さく首を振った。

「いいですよ」

いつもと同じ、あっさりした声。

「そのくらい、変えられます」

軽く言うのに、軽く聞こえない。
いや、なんなら、けっこう重い。

少しだけ、困る。

でも───

少しだけ、嬉しい。


思わず笑うと、青砥さんもふと笑みを浮かべ、そして視線を外した。

そのまま、二人で歩き出す。

自然に隣に並ぶ足音。


「どこまで行きます?」

短い問い。

「とりあえず、この先」

特別な場所じゃない。
目的も、決めていない。

それでもいいと思えた。

少し歩いたところで、そういえば、と思い出した。

「…明日、会議ですよね」

「ですね」

「青砥さん。ちゃんと、仕事してくださいね」

軽く言うと、青砥さんが心外だというような表情を浮かべた。

「誰に言ってるんですか」

その返しがいつもと違うのがおかしくて、私はまた笑ってしまった。