正しくない恋のはじまり


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午後のフロアは、午前よりも明らかにざわついていた。


監査の話は、もう隠しようもなく広がっている。

誰も直接は聞いてこない。
けれど、通り過ぎる時の視線や、ふと止まる会話の端に、自分の名前が含まれていることだけは分かった。

その空気の中で、これからも同じように席に座って、同じように仕事をしていく。

簡単なことじゃない、と遅れて実感していいた。


画面を開いても、文字が頭に入ってこない。
指先に残った緊張だけが抜けきらず、キーボードの上でわずかに震えていた。

それでも、手を止めるわけにはいかない。

ひとつ息を整えて、次の作業に目を落とした、その時だった。


「藤井さん、お疲れ様」

背後から、もう聞き慣れてしまったあのやわらかい声が聞こえた。
嫌な予感がしながら振り返ると、三浦さんが立っていた。

いつもと同じ表情。同じ声。
そして、完成された綺麗な外見。

それなのに、こちらを見る目だけが、少し違う。

「少し、いいかな?」

あんなことがあったというのに、この温度で話しかけてくる得体の知れない強さ。
ぞくりとした。

「……はい」

とりあえず、立ち上がる。


周りの視線がこちらへ集中していた。
社内でも、三浦さんの存在は話題の中心のひとつだ。
それなのに、こうして私を呼び出すなんて。


どこへ行くのかも聞けないまま、後ろをついていった。