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会議が終わり、ゆっくりと席を立った。
足がわずかに重い。
ドアから廊下へ出たところで、ようやく深く息を吐いた。
張り詰めていたものが、一気にほどけていく。
それでも、軽くはならない。
ここから先が、まだ残っている。
そのまま歩き出そうとして───
「藤井さん」
呼び止められて振り返ると、青砥さんがいた。
変わらない表情といつもの声。
けれど、さっきの会議では遠かった距離が、今はちゃんと近い。
「……大丈夫、では、ないですよね」
彼にしては珍しく、明らかに気遣う言葉だった。
ちゃんと、私のことを見てくれている。
それだけなのに、喉の奥がじわりと熱くなった。
「…分かりません」
正直に答える。
無理に整えることができなかった。
「正しかったのかも、まだ分からなくて」
言葉にした瞬間、胸の奥の詰まりがさらに強くなる。
私がしたことで、会社の裏でおこなわれていた“正しくないもの”が見えた。
会社にとっては“正しかった”はずなのに、まだ、居心地が悪い。
青砥さんはすぐには答えない。
ほんの一瞬だけ考えるように間を置き、それから静かに言った。
「正しいかどうかは、すぐには決まりません」
落ち着いた声。
「ただ」と、わずかに視線が落ちるのが分かった。
「間違っていたとも、言い切れないです」
その言葉は、この場に一番ふさわしいものだった。
この曖昧さが、今はちょうどよかった。
私は、小さく息を吸って心を落ち着かせた。
「……そうですね」
それだけ返す。
これでよかったのかなんて、誰にも分からない。
分からないから、迷った。そして、ここにいる。
不安は消えないけれど、自分が決めた選択が間違っていたと思いたくはなかった。



