正しくない恋のはじまり

「誰の指示で確認を行いましたか?」

その問いにだけ、わずかな間が生まれる。
けれど、迷いはなかった。

「…私の判断です」

空気が、わずかに揺れる。

「上長の承認は?」

「ありません」

「事前の報告は?」

「していません」

淡々としたやり取りの中で、自分が残した事実だけがそっと危うい形で積み重なっていった。

あらためて問われると、あの時こうすればよかったとか、どうしたらよかったのかとか、色々な思いが巡る。


「…なるほど」

監査担当が小さくうなずいた。
一度視線を落とし、そして再びこちらを見る。

「あなたの行動は、結果として不整合の発見につながっています」

その言葉に、一瞬だけ息が緩みそうになった。

「ただし」と、すぐに続けられる。
空気が、ぴんと張った。

「組織としては、手順を逸脱しています」


胸の奥に、その言葉が静かに降りてきた。

───分かっていたことだ。
それでも、こうして線を引かれると、痛みは避けられない。

「本来であれば、上長への報告および承認を経て調査を進めるべき案件です」

「……はい」

小さく答える。否定はできない。
その葛藤は何度もした。自分だけで進めていいのか、迷いながらここまで来てしまった。

だから、受け入れるしかない。

「その点において、あなたにも責任があると判断します」

功績でも、正しさでもない。
ただの事実として、位置が定められる。