正しくない恋のはじまり

そこへ、監査員のひとりが口を開いた。

「本件について、ログおよび契約書類の保全は完了しています」

会議室のスライド画面が切り替わる。

「現在、アクセス履歴のトレースと承認フローの確認を進めています」

淡々とした説明の中で、そのひとつひとつが言い逃れの余地を削っていく。

「当該案件において、契約上の委託先と実際の支払先に乖離が確認されています」

これまで積み上げてきたものを、壊す選択をした自分を思い返していた。
まるで、他人事みたいに。

「さらに、承認フローにおいて一次承認の記録が欠落しています」

監査員の指先が一点を示す。

「通常、この処理は二段承認が必要ですが、本件では最終処理のみが通過しています」

空気が、静かに、でも確実に張り詰めていった。

分かっている。昨日、自分で確認したことだ。
それでも、こうして第三者の口から整理された言葉として提示されると、重さがまるで違って感じられた。

「加えて、管理権限によるアクセスが当該時刻に一度だけ確認されています」

会議室の空気が、さらに一段冷える。

誰も口を開かない。
沈黙が、説明の続きのように場に重なっていった。