正しくない恋のはじまり


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十時ちょうど、会議室に入った。


すでに数人が揃っていた。

見慣れない顔。
整えられた資料と、無駄のない視線。

私語はない。
準備の音すら、必要最小限で止まっている。

───怖いくらい、静かだ。


「内部監査室です」

淡々とした声。
抑揚はないのに、空気だけが一段引き締まる。

差し出された名刺を受け取りながら、自分の指先がわずかに冷えていることに気づいた。


席に着いた瞬間、間を置かずに本題へ入った。

その速さに、ここが“確認”ではなく“検証”の場だと分かる。

ここにある視線が、私ひとりだけに集中している。

ふと、壁際に視線を向ける。
そこに、青砥さんがいた。

彼は会議には加わらず、少し距離を取って立っていた。
こちらを見ることも、口を挟む様子もない。

ただ、最初からすべてを見ている位置にいる。

その存在だけが、逆にこの場の緊張を際立たせていた。