正しくない恋のはじまり

翌朝のオフィスは、いつも通り動いているはずなのに、どこか静けさが滲んでいた。

キーボードの音も、電話の着信音も鳴っている。
それなのに、空気だけが薄く張り詰めている。


自分のデスクへ向かう途中、何人かと目が合った。

その視線は、すぐに逸らされる。
けれど、完全に関心を失ったわけではない。

見てはいけないものを見た、みたいな距離の取り方。
でも同時に、確かめるような気配も残っている。


───もう、話は回っている。


何がどこまで伝わっているのかは分からない。
けれど、“何かが起きた”ことだけは、共有されている。

その中で、これからも仕事を続けなくてはいけない。

そう思った瞬間、胸の奥に小さな重さが落ちた。


席に着くと同時に、社内チャットが鳴った。

『本日十時より、当該案件に関する内部監査を実施します』

短い一文だった。


だが、その一行で状況は決まる。

私の行く先が、どこなのか。