正しくない恋のはじまり

三浦さんの口元から、笑みが完全に消える。

部長はしばらく何も言わなかった。
言い返したいのに、言葉にならないみたいに。

やがて、低く吐き捨てる。

「……好きにしろ」


その一言が落ちたあと、誰もすぐには動かなかった。


空気だけが、じわじわと沈んでいく。
押し切ったはずなのに、勝った感じはしない。


むしろ、何かを引き受けた実感だけが、遅れて重くのしかかってくる。

指先に残る緊張が、まだ抜けない。
呼吸も、少しだけ浅いままだった。


「……ふーん。そっか」

三浦さんのいつもの調子でつぶやかれた声で、ようやく現実に引き戻される。

小さく息を吐く音。それだけなのに、妙に耳に残る。

「ちゃんと選んだってことなんだよね」

穏やかな言い方だった。
でも、そこに含まれているものは、さっきまでとは違う。

何か言い返すべきなのかも分からないまま、ただ視線だけが揺れる。

三浦さんはそれを待たない。

「じゃあ、もう止めない」